第6章 執着
美音はひまりにドレッサーの前に座るように促すと、優しくヘアブラシでひまりの髪をときはじめた。
こうして誰かに髪をといてもらえるのが気持ち良くて、恥ずかしくてひまりは鏡越しの美音を見ることが出来ず、視線を落として太腿の上で組んでいる手を見ていた。
「ひまりちゃん綺麗な髪してんねー。顔も整ってるしウズウズしちゃうねぇ」
少し鼻息が荒くなる美音にアハハーと苦笑いで返し、また髪を滑るブラシの気持ち良さに目を閉じた。
なんだろう…懐かしい…
「そういえば、ひまりちゃんは弟君と結婚するってホント?」
「は?」
「ん?テンチョが言ってたよ。ひまりは由希の未来の伴侶だって…。ありゃ?やっぱテンチョの早とちり?思い込み?」
よく訳の分からないことは言っているが、まさか周りにもそれを言っているとは思っておらず焦ったひまりは美音の問いにウンウンと素早く頷いた。
その様子を見ていた美音は、ひまりの髪をコテで丁寧に巻きながらケラケラと笑い始める。
「ちょっとそんな気はしてたんだけどねー!テンチョってあんな感じでしょー?弟君のこと大好きなのに空回りが凄いっていうかねー」
「あー。確かに、分かります。不器用ですよね、綾女って」
いつもの由希と綾女のやりとりを思い出しクスッと笑ったひまりに、美音も鏡越しで微笑み返す。
美音と目線が合ったあとに、鏡に映った自分を見てひまりは自身の姿に驚いた。
不器用で、簡単に髪を纏めるくらいしたことが無かったひまりは、まるで雑誌で紹介されるようなふわふわウェーブの髪に「わぁ…」と分かりやすい感嘆の声を上げた。
「可愛いっしょー?これからもっと可愛くしていくからねっ」
髪型だけでこんなにも雰囲気も気分も上がるものだと、ひまりは初めて知った。
さっきまでは下に向けていた視線を上げて、今度は化粧を施していく美音の姿に釘付けになっていた。
「女の子ってね、ちょっとしたことで凄く可愛くなるんだよー。髪型とか、服装とかでね。それが楽しくて辞められないんだよなぁ」
ラインひくから目線下にしてーと言われ、そうしようとする前に見た美音の顔は本当に嬉しそうに目を細めていた。