第6章 執着
一方、綾女に無理矢理連れ出されたひまりは、連れてこられたお店のソファに座り絶望したような顔で俯いていた。
「テンチョ!どんなのがいいっすかー!?魔法少女なんてのも有りっすよねぇー」
「はははは!さすがだね!美音!さぁさぁずずいとひまりを可憐にしてくれたまえ!」
ここは綾女が経営する手芸屋さん。
だが、客の大半はオーダーメイドの服を注文することが多いらしく、ナース服やメイド服などが所狭しと並んでいる。
そして、メイド服におさげ髪にメガネという萌えをふんだんに詰め込んだ女性は従業員の倉前美音。
可愛い女の子を見ると、お着せ替えをさせたくなる習性を持つという彼女は早速ひまりに目をつけ、興奮気味にジリジリと詰め寄ってきていた。
「あ、あの、私ちょっと用事を…」
「さぁーて、お着替えしましょうかひまりちゃん」
汗をダラダラ流しながら逃げようとするひまりの手を、有無を言わさず引く美音は、さすが綾女の元で働いているだけあって彼に引けを取らない強引さを持ち合わせていた。
綾女だけでも得体の知れない疲労感に襲われるのに、美音も…となるととんでもなく疲れる…。
項垂れたひまりは、逆らっても仕方ない…と観念したようにウキウキしている美音について行った。
「そいじゃテンチョ!ちょっくらひまりちゃん借りやすぜ!」
「由希のロマン記念日になるような仕上がりを期待しているよ!」
ロマン記念日とは、一体何なのか…。
しかも由希が見る前提なのか。
コスプレのまま帰されるということだろうか。
魔法少女のコスプレで家に帰る。という最悪のシナリオを頭の中で巡らせながら、店の奥の部屋へとついていく。
その部屋は作業台やミシンが置いてあり、初めて見る"服を生み出す現場"にひまりは好奇の目で辺りを見回していた。
「本当に…イチから作るんですね…」
いつも何気なく身につける衣服。
その原点があの大きな布なんだと思うと不思議な気持ちになった。
「そうだよー!ひとつひとつね、大事に作り上げて行くんだよ。大事に時間をかけて作り上げたこの子たちは、言わばあたしらの子どもみたいなもんかなぁ」
ハンガーラックにかかる綾女と共に作り上げたであろう衣服を、美音は愛おしいものに触れるようにそっと撫でていた。