第6章 執着
オニギリを抱えたまま居間を出て行こうとする夾に、ちょっとちょっと!とひまりが引き止める。
「それそのまま持ってくの?」
「入れるもんねーだろ。適当に紙袋かなんかに入れて持ってく」
「まあそうだけど、なんだかなー…。そうだ!買いに行ってくる!」
見送る為に居間を出ていく夾を追いかけて、玄関で閃いたと言わんばかりにパンッと両手を胸の前で重ねる。
「??…なに買うんだよ?」
「ランチバッグ!今日特に予定ないし、由希と夾の分買ってくるよ!」
「あー。確かに変態野郎のいる家に居ねぇ方がいいかもな。今日早く帰るようにすっから俺が帰るまで外でウロウロしとけ」
居間で何故か高笑いをしている綾女の声に顔を歪ませると、コンコンと靴の爪先を数回床に跳ねさせて、「んじゃ行ってくるわ」と片手をあげながら玄関を出て行った。
「ありゃ保護者レベルの心配性だなー。…さて、と。用意して私も出掛けよう」
「何処へ行こうと言うのだい?ひまり」
正に神出鬼没。
先程まで高笑いをしていた筈の綾女が、どう言う訳か今はひまりの真横にいるのだ。
「ちょ、ちょっと…お出かけに…」
「折角このボクが来ていると言うのに出掛けてしまうのかい!?どのような用事だい!?」
「えっと…由希と夾のランチバッグを買いに…」
迫ってくる綾女に後退りしながら答えていくと、今のひまりの言葉にキョトンとした顔をしてその場で立ち止まる。
納得してくれたか…と心の中で安堵していたひまりだったが、その安堵感は秒で崩されることになる。
「そんなことかい?簡単な事じゃないか」
「え?」
待って。何か…嫌な予感…
「ぐれさん!少しばかりひまりを借りていくよ!」
「はいはーい気をつけてー」
「え、待って」
居間から答える紫呉は、声に笑いが含まれているのが分かる。
「さぁさぁ善は急げと言うからね!すぐに出発しよう!いざ行かん!秘密の花園へ」
「待ってどこそれ!?!?」
ひまりの嘆きも虚しく、綾女は彼女の腕を掴んだまま強引に外へと連れ出して行く。
着の身着のままで連れ出されたひまりは、「せめて髪の毛だけでも」と交渉してみるが「案ずることはない」の一言で片付けられてしまい諦めたように、肩をガクッと落として項垂れた。