第6章 執着
「朝からイチャつかんでもらえますー?」
「あ、紫呉、ごちそうさま?」
食べ終えた食器を持ってきた紫呉はひまりの言葉に「今日も美味しかったよありがとう」と食事を作ってもらう側としては百点満点な言葉を伝えると、揶揄うような顔で夾に視線を送る。
そんな紫呉に易々と乗せられてしまう夾は、ギャーギャーと反論を始めるがこの家にいるもうひとりの人物が顔を出したことで一気に冷静さを取り戻した。
「なんだいなんだい!イチャつくとは聞き捨てならないね!深い海よりも更に深く愛し合うひまりと由希を引き裂こうとするとは放ってはおけないね!キョン吉!」
「忘れてたわー…めんどくせー奴がいること」
「綾女もお腹いっぱいになったー?」
「勿論だともひまり!玉子焼きに味玉、ベーコンエッグに卵スープ…全て素晴らしいものだね!コレステロールが全力疾走で襲ってくるようなバルス的要素が満載な朝食だったよ!!」
「何言ってんのかちょっと分かんないけど、喜んでもらえてるようで良かったよ」
「ほぼ貶されてんぞ。気付け」
呆れたようにため息を吐く夾に、今朝抱いた疑問を思い出したひまりはそれを投げかけた。
「そういえば、夾は何を怒ってたの?私、二度寝する予定だったのに夾の怒鳴り声で起きちゃったんだけど」
「また壁と友達になって二度寝してたろーが。あれだよ。そこのド変態が知らねー間に俺の布団に潜り込んでたんだよ」
綾女を睨みつけながら説明すると、それを聞いていた綾女は「仕方ないのだよ…」と眉尻を下げて2、3度首を横に振った。
「ボクは蛇だからね。蛇が寒さに弱いのは知ってるかい?昨夜は少しばかり冷え込んでいたから本能的に温かい場所を探していたのだよ。ひまりと由希の部屋は鍵が掛けられていたからね!仕方なくキョン吉で耐え忍んだという訳さ!」
「あ、夜中にドアノブガチャガチャってされてたの夢だと思ってたけど、リアルだったのね」
心霊現象か、夢だったのか…怖いから夢ってことにしとこーと結論付けていたひまりは、真実を知って口元を歪めていた。
ある意味心霊現象よりも怖かった真実。
夾に言われた通りに、鍵掛けといて良かった…と。心底夾に感謝していた。