第6章 執着
花柄の巾着に入れたオニギリを持った由希を見送ったあと、ひまりは夾の分のオニギリを何に包むかをキッチンで悩んでいた。
巾着は由希に渡した1つしかない。
「何悩んでんだよ?」
「わっ!びっくりした…」
急に夾に声を掛けられ、ビクッと肩を震わせると「あー。これ、何に包もうかなーって…」と少し気まずそうにひまりは彼からオニギリへと視線を移した。
慊人から「夾はお前が大嫌いだ」ということを言われてから僅かに気まずさが出てしまう。
その後の夾の態度を見ていても慊人の言葉はとても信じられなかったが、何となく心の何処かで「もしかしたら…」と考えてしまう。
「…それより俺はコレ、気になんだけど」
そう言って夾は台所にサランラップで包まれている2つ並んだオニギリの頂点を指差した。
ひまりは何が??と彼が指差す場所に視線を向ける。
「なんで米の中に玉子焼きが埋もれてんだよ…?」
「いや、だし巻きですけど?」
ひまりが作ったオニギリは、まるで天むすの海老の尻尾がちょこんと出ているかのように、中に埋もれた玉子焼きが顔を出していた。
「ンなことどーでもいいんだよ!普通、梅干しとかそんなんだろ!なんで玉子ぶち込んでんだよ!?」
「天むすみたいで可愛いじゃん!お寿司の玉子があってなんでオニギリに玉子いれたらダメなのよ!?」
「別にダメって訳じゃねーけど…」
「由希は、斬新だねひまりらしいねって褒めてくれたもん」
「それ多分褒めてねーぞ」
ひまりは口を尖らせ、拗ねたように「もういい、梅干しで作りなおしますー」とだし巻きオニギリを取ろうとした時に、横から素早く出てきた手に奪い取られてひまりの手は空振りした。
「…別にいらねーとは言ってねーだろ」
バツが悪そうな顔で奪い取ったオニギリを大事そうに両手で持つ夾に、ひまりは込み上げてきた笑いを抑えきれずに吹き出してしまう。
「ちょっ!嬉しいんじゃん!欲しかったんじゃん!素直じゃないなぁ!」
「ばっ!!ちっげーよ!!」
耳まで赤くした夾が反論するが、ひまりはケラケラ笑うことをやめなかった。
なんだ。今までの夾と変わってない。と安堵したことも、笑いを止められないひとつの原因だった。