第5章 それぞれの
別荘からの帰りの道のりは長く、昼前に向こうを出た筈だったがこちらについたのはもう夜だった。
お昼ご飯と晩ご飯を外で済ませたことも、遅くなった原因ではあるが。
「やっぱ我が家が一番だなぁ」
うんうん。とひとりで頷きながら感慨深そうに部屋の扉を開ける紫呉に、答えるものは誰もいなかった。
それよりも衝撃的な光景にひまりと由希と夾は目を奪われたから。
「長旅ご苦労だった諸君。さぁ、僕に構わずゆるりと寛ぎたまえ!」
机と床には食べカスや雑誌、ワインの空き瓶やカップ麺の残骸など、1日では到底散らかせないであろう汚部屋ぶりにひまりは開いた口が塞がらなかった。
「お前どうやって家ん中入ったんだよ?!」
「まぁまぁ夾君。あーやはこうして留守を守ってくれていたんだから」
不法侵入の疑いがある綾女に、夾がつっかかろうとするのを止めたのは家主である紫呉だった。
その紫呉の穏やかさにひまりは僅かな違和感を覚えた。
「今日1日だけれどね!!」
「1日でこれ!?!?」
「どーせ鍵掛け忘れたんだろ。紫呉」
別荘へ向かったすぐ後からこの家にいたと勝手に確信していたひまりは突っ込まずにはいられなかった。
そして由希の推察に「あら由希君ってば鋭い…」と困ったように笑う紫呉に、先ほどの違和感はこれがバレたくなかったからか。と理解する。
綾女は不法侵入したにも関わらず、悪びれた様子は一切見せずに座椅子で自身の長いシルクのような髪を器用に編み込むと、立ち上がってひまりと由希の元へと歩み寄る。
行動が読めない綾女に警戒しているひまりは、やんわりと由希の背中へと隠れて彼の様子を伺っていた。
「夏の別荘という最高のシチュエーションは君達を大人にしてくれたかな?月明かり差し込む広いベッドでトンネル開通イベント…」
「クソ下品だ馬鹿兄貴」
微笑みながら持っていた鞄を綾女の顔面に激突させて、続きの言葉を阻止する。
ひまりも今のはゲスい。と顔を歪ませていた。
「はははは!殴られてしまったよ!」
「さすがに今のは仕方ないよあーや」
特に懲りた様子のない綾女は鼻を摩りつつ、もう一度由希に向き直った。
今度は少し真剣な面持ちで。