第5章 それぞれの
慊人と紅野が去っていくと、力が抜けたように座り込むひまり。
大きな怪我をさせられることなく終わったことに僅かに安堵したが、自身の情けなさに由希は彼女の元へ行くことは出来なかった。
それは夾と潑春も同じだったようで、誰1人として彼女の元へ向かう者はいなかった。
「虫酸が走る…俺自身に」
潑春に掴まれていた手を払い除けると、苛立ちを露わにしたまま早々に部屋に戻る夾。
由希はその背中を見送ったあと、自分の腕をギュッと握った。
「アイツと同じ意見なのは気に食わないけど…今回は同意するよ」
自嘲する由希の肩を潑春がポンと叩くともう一度外のひまりに目を向けた。
紫呉とはとりと話すひまりは薄暗さだけでは説明がつかない程顔色が悪く、潑春は眉根を寄せた。
「"守る"って難しい。何が最善で正解なのか、わからない。どんだけ足掻けば…辿り着けるんだろ」
「まだまだガキ…ってことだな。俺たちは」
そう呟き部屋へ戻る由希に、もう一度ひまりに視線をやってから着いていく潑春。
怒りを抑えるために握りしめ、少し血が滲んだ自身の手のひらを見つめながら歩き出した。
後悔したくない。失いたくない。
自分が守る。と慊人に傷つけられたひまりを見たときに決意した筈なのに、あの時と何も変わらない。
今のままじゃ、守れない。
痛む手をもう一度握り締め、リビングを後にした。
「慊人…どうして別荘に顔を出しに来たんだろう」
由希は階段を登り切った所で立ち止まると、潑春に疑問を投げかける。
何故、呼び出すのではなく急にこっちに姿を現したのか。
「慊人さん、本家に呼ばれて急遽帰らなくちゃいけなくなったみたいだよ」
潑春ではなく、さっきまで外にいた紫呉が返答を寄越したことに驚き、2人は階段の下に目をやった。
意地の悪い顔をしている紫呉に、由希は何となく紫呉が言いそうなことが分かりギュッと拳を握った。
「結局見てるだけしか…」「ごめん先生」
紫呉の言葉を遮ったのは潑春。
「今煽られたら、キレんの耐えられそうにない」
眼光を鋭くさせた潑春はそれだけを伝えると返事も聞かずに部屋へと戻っていく。
「そういう所が…ガキだってのにねぇ…」
それを聞いた由希は沈痛な面持ちをすると、潑春の後を追うように部屋へと戻って行った。