第5章 それぞれの
「慊人さんが来たそうじゃないか、別荘に…。どうやら僕はまた、君たちの力にはなれなかったようだね」
憂わしげな表情で由希とひまりの肩に手を置く綾女に、先程ゲスいと思ったことをひまりは反省した。
不法侵入は褒められたものではないが、ずっと心配してくれていたんだろう。
帰ってきた私達をいち早く元気付ける為にこの家で待っててくれたんだ。
「だからせめて今夜だけは!傷心の中にいる由希とひまりにこの胸を貸そうじゃないか!僕の肌で疲れた心を存分に癒すがいい!君達の為ならばこの衣服!脱ぎ捨てる覚悟は」
「脱ぐなよ!!!!」
紫呉の着物を勝手に拝借して着たであろう、その着物の帯に手を掛けた所で由希が綾女を怒鳴りつける。
ひまりはまた少し後退り、由希に隠れながら頭を抱えていた。
「なんだよ、お前泊まる気かよ今日」
不機嫌に腕を組んだ夾が問いかけると「モチのロンだよ!キョン吉!」と当たり前のように答えるので、今度は由希が頭を抱える。
「兄さんドコで寝るつもりだよ?」
「それは愚問だね!由希!ひまりのベッドで愛を確かめ合いながら」
「何でそうなるの?一回飛ぶ?」
「やってみろ。骨すらも残してやんねェからな」
殺気を帯びた由希と夾に、これまた悪びれる様子もなく、ははははは!と笑う綾女。
ひまりはひょっこりと由希の後ろから顔を出すと、助け舟を出すためにある提案をしてみた。
「紫呉と寝るのは?2人、仲良いんだし…」
だが、この言葉がまた悪ノリの餌になってしまう。
綾女はひまりの提案を聞くや否や、まるで恋する乙女のようにモジモジとしてみせた。
「だってぐれさんったら…朝まで寝かせてくれないから…」
「コラコラやめないか。子どもたちの前で」
目の前の馬鹿な大人たちを止めてくれ。
誰か…いや、はとり。
この状況を打破出来るのははとりしかいない。
ひまり、由希、夾は切実に、はとりに今すぐこの家に来て欲しいと心から願った。
「ねぇ…何かもう2人で盛り上がってるし、放っておいて良くない?」
「だな。ひまり、鍵掛けて寝ろよ」
「ガッテン承知」
「今日はもう出来るだけ部屋から出ないで…ひまり」
3人は気配を消し、バレないように居間から出て行った。