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ALIVE【果物籠】

第5章 それぞれの


ここ数日の慊人の呼び出しのお陰で、一気に読み進めた本を読み終えた所で由希は布団に潜り込んだ。

明日も慊人の所か…と憂鬱な気分に蓋をするように目を閉じ、意識が遠のきそうになった頃。
突如隣の部屋から聞こえた、扉が勢いよく開かれる音と紅葉の悲痛な叫びに閉じた瞳をすぐに開き飛び起きた。


「しーちゃん!!ひまりが!!慊人がッ!!!!」


その声のすぐ後に別の扉が開く音が聞こえ「こっち!!」とまた紅葉の焦った声の後に3つの足音が駆けていく。


"ひまり"と"慊人"


ふたつの名前が出たことに嫌な予感しかしなかった由希は、考えるよりも先に体が動いていた。
もつれそうになる足を必死に動かし、部屋を出ると夾と潑春も同じように飛び起きたようで、険しい表情のまま言葉を交わすことなくリビングへと降りていった。

リビングは明かりもつけず薄暗いままで、月明かりだけが室内に差し込んでいる。
その中で窓のカーテンに隠れるようにして外の様子を伺う紫呉とはとり。
紅葉はその横で小刻みに震えながら両手で顔を覆っていた。

余りにも異様な光景。

由希、夾、潑春は別の窓のカーテンに隙間を作り覗き込む。
目の前の出来事に3人は絶句した。

ひまりは両膝を地につけて、慊人に髪を掴まれて上を向かされている。
ひまりの表情は見えないが、彼女の耳に顔を寄せる慊人は冷笑的な笑みを浮かべている。


「ふざけんっっ」

「待って夾」


頭に血が上り、走り出そうとする夾の腕を持って止めたのは潑春。
夾は自分を止める潑春を血走った目で睨みつけた。


「先生と、とり兄に任せたほうがいい。俺らが出るとややこしくなる」


ひまりと慊人から目を離さない潑春の言葉に、由希も少し冷静さを取り戻す。
夾と同じように怒りで我を忘れかけていたから。
だが冷静さを取り戻したと言っても、爪が食い込むほど握り締めた拳の力を緩めることはできなかった。


「アイツ等動こうとしねぇじゃねぇか!このままだとひまりが」

「夾、黙って。とり兄がひまりに怪我させられるのをみすみす見過ごすはずない。それに…悪いケド、俺も冷静じゃない。だから黙って」


夾の言葉に被せて声を低くする潑春は、静止させるために掴んだ夾の腕に指が食い込む程に力を入れていた。

自身も何かに耐えるように。
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