第5章 それぞれの
なんだか体が痛い気がして薄く目を開けると、薄暗い部屋の中に月明かりが差し込んで来ていた。
寝ちゃってたんだ…。
ソファで寝てしまった体は至る所に痛みがある。固まった体をゆっくり起こして両腕を上に伸ばして凝りをほぐした。
すーすーと誰かの寝息が聞こえ、隣を見ると気持ちよさそうに寝ている紅葉の姿。
紅葉も一緒に寝ちゃったんだ…。こんなとこで寝てたら体痛くなるよね…。
紅葉を起こしてベッドに連れて行こう、と立ち上がりすやすや眠る紅葉を揺らそうと思ったが、喉がカラカラなことに気付き水を求めてキッチンへと向かった。
薄暗さに慣れている目に、長い間寝てたんだろうか、と時計を見るがまだ時刻は23時。
コップに注いだ水を、乾いた喉に一気に流し込む。
ふぅと一息つくと、そういえば。と外の天気が気になり、庭に続く窓のカーテンを開けたところで一瞬にして血の気が引いた。
全ての血液が心臓に集められたかのようにドクドクと大きな音を鳴らし始める。
そこには、小雨に降られながらも月明かりに照らされている慊人が立ち竦んでいたから。
私と目が合った所で薄く口を開いて微笑むが、全く目が笑っていない。
慊人を纏う空気がピリピリしていて、苛立ちが手に取るようにわかった。
唾を飲み込み、意を決してから紅葉を起こさないようにゆっくりと窓を開けて裸足で庭に出る。
雨で少しひんやりした地面が、僅かに震える脚を更に震わせた。
「慊人…?どうしたの…?こんなに…遅くに」
出来るだけ刺激しないように優しく語りかけると、慊人はニッコリと笑った。
「急用でね、すぐに帰らなくちゃいけなくなったんだ。だからみんなに挨拶にと思って直々に来てあげたよ。ひまりにも会いに来てあげたんだよ」
いつもより低い声音に、恐怖で心臓が鳴り止まない。
落ち着け…と頭の中で自分に声をかけながらも、今の慊人は誰にも会わせちゃダメだ。と脳内が警告音を鳴らしていた。
「ねぇひまり?みんなを呼んでくれない?」
「みん…な、寝てるよ?」
「じゃあ起こして」
「ダメ…だよ…。慊人どうしたの?今、凄く怒ってる……ッ」
頭と膝に衝撃と痛みが走った。
慊人に髪を掴まれ、無理矢理跪かされていた。
一気に冷や汗が出てきたのが分かり、恐る恐る見上げると眼光を鋭くさせた慊人がそこにいた。