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ALIVE【果物籠】

第5章 それぞれの



「やったー!ボクの勝ちー!!」

「…負けた」


紅葉の勝利で、一騎討ちが終息した頃、待ちきれなかったひまりはソファに体を預けて眠ってしまっていた。
由希は、顔を天井に向け少し口を開いて寝ているひまりにクスッと笑うと本をパタンと閉じて立ち上がる。


「ひまり寝ちゃったし、明日も朝から慊人の所だから…そろそろお開きにしようか」

「やだなー…明日。ボク、ずっとひまりといたい」


立ち上がった由希の場所を横取りした紅葉は、彼女の肩に自身の頭を置いて物悲しげにため息を吐いた。


「明日で旅行は終わりだけど、夏休みはまだあるんだ。帰ってからでも遊べるだろう?」


由希が優しく諭すように紅葉に語りかけると、表情を曇らせたままの紅葉が視線を下に向けたまま口を開く。


「ひまりより慊人を取って…ひとりぼっちでサミシイ思いをさせて…それでもひまりの時間が欲しいと思ってしまうボクは…狡いよね」

「そうだね…俺たちは狡いし…欲深い。いいんじゃないか、それで。きっと紅葉の今の言葉は、ひまりにとって嬉しいものだよ」


俯く紅葉の頭をポンと撫でると、いつの間にか部屋から居なくなっていた潑春がリビングに戻ってきており、そちらに視線を向けた。


「ひまり、どーせ起きないかと思って…」


その手にはタオルケットが持たれていて、潑春は座ったままの彼女の体を起こさないように横にしてやるとタオルケットを掛けてやった。


「紅葉はどうする?」

「ここでひまりと寝る。起きた時、みんながいなくて悲しまないように」


そう言って紅葉も、ひまりとは反対側にある肘掛を枕代わりに横になると哀愁が篭った大きな瞳を閉じる。

潑春が優しく微笑んだあと、ひまりに掛けているタオルケットの余った端を紅葉にも掛けてやり「おやすみ」と声をかけてリビングから出ていった。


「じゃあ、ひまりを頼んだよ。おやすみ紅葉」


潑春の後を追うように由希もリビングの電気を消して出ていくと、それを確認した紅葉がゆっくりと起き上がる。
すーすーと規則的な呼吸を続けるひまりの額に唇を落とすと「夏休み、いっぱい楽しもうねひまり」と語りかけ、再度ソファに横になり、その体をタオルケットの中に埋めた。

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