第5章 それぞれの
「素麺って…はち切れんばかりに食べるものだっけ…?」
「そんなことより、夾君はちゃんと帰ってきたのかい?」
"そんなことより"発言をした紫呉に、ひまりはムッと口を尖らせると「いまお風呂ー」と素っ気なく返事をした。
「ねぇひまり!まだ眠くない?遊ぼ!遊ぼー!」
"おもちゃ箱"からトランプを持ってソファに勢い良く座った紅葉が、嬉々とした顔でひまりを凝視していた。
そんな姿にクスッと笑いながら頷いて、由希と潑春と紫呉にも声を掛ける。
由希と潑春は二つ返事で了承したが、紫呉は「僕は眠いので先に寝させてもらうよ」と手をヒラヒラさせながら自室へと向かっていった。
「紫呉ノリわるぅー!紅葉、何やるの?」
また口を尖らせた後、ひまりは箱から出したトランプをきる紅葉に向き直る。
うーん。と人差し指を口に当てて悩む紅葉の横に座った潑春が「ババ抜き」とボソッと呟いた。
「夾が戻ってくる前に…やろ。ババ抜き」
「戻ってきたら、夾のひとり負けで勝負にならないもんね…」
ひまりが隣に座る潑春の言葉に苦笑していると、彼女の横に由希が腰掛ける。
「ひまりお腹大丈夫?」
さっきの大袈裟発言を本気で心配してくれる由希に「へ、へーき!ありがとう」と答えると、軽い自己嫌悪を拭い去るように「紅葉配ってー!」と声を明るくさせた。
配られたトランプを両隣の潑春と由希に見られないように縮こませながら、揃っているカードを場に捨てていった。
「何やってんだ?お前ら?」
「あー!最弱王が帰ってきたー!」
肩にタオルをかけた夾が入浴から戻ってきたところで、ひまりからの言葉に青筋を立てて拳を震わせる。
「だーれが最弱だよ!俺も混ぜろ!勝負しろ!」
「このショーブ終わるまで待ってね!キョー!」
紅葉のこの言葉から潑春との一騎討ち状態が5分程経過していた。
「春はケッコー分かりやすいよねー」
「紅葉は結構…分かりにくい…」
お互い1歩も引かず、ババを交換し合うだけの勝負を続けている。
なかなか決まらない勝負に由希は本を読み始め、最初こそワクワクしていたひまりでさえも大きな欠伸をし始める。
「…ねみ。もういいわ。寝る」
と、夾もこの勝負を待つのが怠くなったのか自室へと戻っていった。