第1章 宴の始まり
「んー………」
なんて言えばいいのか…。考えながらも値札を切る手を止めなかった。真っ直ぐこちらを見ている夾と視線を合わせてしまうと誤魔化せないような気がして。
「家なくなって…それにアイツに…慊人に怪我させられたんだろ」
言いやがったな。あの年中夏休み野郎。
心の中で悪態をつく。
「なのに何で平気な顔して笑ってんだよって聞いてんだよ」
「うーん…あ!ほら!笑う角には福来たるってやつ!そういうこと!」
「お前それ今思いついただけだろ」
間髪入れずに返され、あはは。バレたー?と笑っていると片手で顔を顎下から掴まれ頬を挟まれ無理矢理動かされた。
目の前には夾の顔。
「目ぇそらすな。こっち見ろ」
パンツはダメでこの至近距離は大丈夫なのか。
心の中でツッコミを入れて、せめてもの抵抗で眉間に濃く皺を寄せてみたが、手を緩める気はないみたいでジッと見られたままだった。
諦めて視線を合わせながら両手を顔の横に持ってきて降参のポーズを取ると手を離してくれた。
「何隠してんのか知らねーけど、疲れねーの?引きつった笑い方。昔っから時々、気持ち悪い笑い方してたよな」
「えっ……」
そう言われてひまりは目を見開いてその瞳が揺れた。表情も強張っていて明らかに動揺していた。
あれ…?私…ずっと"上手く"出来てなかったの…?
「な、なんだよ」
ひまりの動揺っぷりに夾も動揺する。
(せいぜい自分が欠陥品だとバレないように頑張って?)
慊人が言っていた言葉が頭の中に響いた。
小さい頃はよく、お前は何をやっても上手くいかないね。中途半端だね。さすが産まれ持っての欠陥品。と言われていた。
上手くやれてると思ってたのに。
やっぱり私は欠陥ひ
「おい!!!!」
両肩を掴まれて、どこか不安そうな顔の夾を見てハッとした。
ヤバかった。今、黒いものが溢れ出て止められないような、そんな感覚に落ちてしまいそうだった。
「ごめん!何か今、ぼーっとしてて…。もしかして寝不足かなー?」
この空気を取り繕うように笑うひまりは、夾から見ていつもの違和感ある笑顔だった。
今この顔をさせてしまってるのは自分だ。と罪悪感が産まれた。