第1章 宴の始まり
夜、早めにお風呂に入らせてもらってから、部屋で買ってきた荷物の整理をしていた。
陽が落ちて暑さは柔らいだとはいえ、蒸すような気温にお風呂上がりの火照った体のままドライヤーはする気にならず、濡れた髪をタオルで巻いて作業を始める。
「歯ブラシはー…あとで使うからこっちで、…あ。これの値札外さなきゃ。」
衣類が入った袋の中身を全て出してしまい、ハサミを持って値札切りをしていると
コンコン
「ひまり、今ちょっといいか」
ドアをノックした後に夾の声が聞こえて「はいはーい。どうぞー」と入室の許可をする。
ドアノブを捻ってガチャリとドアが開き、ドアを閉めてから夾がこちらを一瞬見た途端、目を見開いて昼間のように顔を真っ赤にして後ろを向いた。
その様子に、あぁコレか。とひまりは自分の左手に目をやる。
右手にハサミ。左手にパンツ。
そしてその横には雑に置かれた値札付きの他の下着たち。
「だっかっら!!お前は!!っんでそんなもん持ってんだよ!!!普通に置いてんだよ!!!!」
シャーっと猫が威嚇するかのように背を向けて怒鳴りだす。
そんな夾を気にすることなく値札を切ってそのゴミを小さな袋に捨てていく。
「いや、だって。値札切らなきゃダメじゃん。」
「ちげーよ!!っっ隠せよ!!今入るなって言えよ!!」
「えー。夾のタイミングが悪いと思いマース。」
夾の反応が面白くてクスクス笑ってしまうが、このままだと彼の時間を無駄に取ってしまうことになるので下着類だけ元の袋に直して大丈夫だよーと伝える。
チラッとこちらを確認したあとに振り向いて目の前にドカッと座った。
胡座をかいて膝に肘を置き、拳で頬を支えてこちらを見る姿に短時間で終わる話ではないんだろうなーと察して服の値札切りを続けることにした。
こちらを見つめたまま何も言ってこない夾に「どうしたの?」と聞く。
何を聞かれるだろう?怪我のこと?5年前の話?
質問されるであろう内容を予想し、答えを考えながら手を動かし続ける。
「…何でお前、そんな平気そうな顔してんだよ」
わお。これは予想外。答えを用意してなかった。