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ALIVE【果物籠】

第5章 それぞれの


海に出た所で、砂浜に見慣れない背格好の人物を見つけ、ひまりは目を凝らしてじっくり眺めた。


真っ黒でストレートの長い髪を風になびかせて真っ黒のブーツで砂浜に立つその女性に、ひまりの昔の記憶が蘇る。


「リン…?」



草摩依鈴。
ぶっきらぼうで口は悪いが、何かとひまりを気にかけてくれた姉的存在の彼女。
そして十二支の馬。

大好きだったリンが何故ここにいるのかは分からないが、そんなことよりもひまりは体が先に動き、砂浜へ続く階段を駆け下りていた。


「リン…リンッ!!!」


砂に足を取られながら必死で走ると、ひまりの声に気付いた依鈴が驚いたように黒髪を広げて振り返る。


「ひまり…」


優しい目をしていた筈の依鈴の瞳が鋭くつり上がったのを見て、ひまりはビクッと肩を震わせて砂浜の上で立ち止まった。


「寄るな!!出て行った奴がどの面下げてノコノコ帰ってきてんだ」


拒絶の表情と言葉にひまりは全身を硬直させた。
それと同時に、受け入れてもらえると勝手に確信していた自分を恥じていた。


「二度と私に関わるな!草摩の本家にも近付くな!ここに私が居たことも絶対誰にも言うな」


依鈴には受け入れて貰えると何故か確信していた。
当たり前に受け入れてもらえる等と、どうして自惚れたんだろうか。

ひまりは呆然として依鈴の足元を見ていた。
蒸し暑さも、波の音もわからない。全てのものから自身を遮断しているようだった。
そんなひまりの姿に、依鈴は舌打ちをすると砂に足を取られないように、ザッザッと踏みしめながらひまりの前から立ち去って行った。
横を通り過ぎる時に、なびく髪からシャンプーの香りがしたその瞬間、鮮明にある記憶が呼び起こされた。

暗闇の中で依鈴に抱きしめられた時に強く感じた彼女の髪の香り。それに安心して濡れた目を瞑ったひまりは彼女にその身を委ねていた。


抱きしめ…られていた?

何故私は変身してないの…?


蘇った記憶に目を見開いて依鈴を呼び止めようと振り返るが、既に彼女の姿はそこになかった。
崩れるように砂の上に座り込む。

私の記憶違い…?

でも確かに…あの時の温もりは覚えてる…。


自分の両手を見つめ、動揺したその目は見開いたままだった。
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