第5章 それぞれの
ひまりは誰もいないシンとした別荘のリビングで、ソファに膝を立てて寝っ転がりながら無機質な天井を見上げていた。
水鉄砲大会をしている時に紫呉の声が聞こえ、ひまりと夾が驚きながらその方向を見るとニコニコとしながら手招きをしていた。
水を滴らせながら2人で近付くと
「ごめんねひまり。夾君借りていくねっ」と軽くウィンクをする紫呉に声を揃えて「は??」と返す。
「慊人さんがお呼びなんだよ。とりあえず服着替えて向かおうか」
え…と2人で目を見開いた後、夾がそれを細めて眉をしかめる。
「どういう風の吹き回しだよ…他の奴は帰ってこねーのかよ。ひまりはどーすんだよ」
「申し訳ないけど、ひまりはひとりでお留守番だね」
「待って…何で夾?…あんまりいい予感…しないんだけど…」
ひまりは熱気で赤くしていた顔を白くさせると、不安げに夾を見上げた。
「…だろうな。…着替えに帰んぞ」
ピリピリとした雰囲気とは逆に、ひまりの頭に乗せる夾の手は優しかった。
別荘で着替え終えた夾は、紫呉と出て行く前にもう1度優しく彼女の頭を撫でると、特に何の言葉も発さずに背中を向けて出て行った。
「みんな向こうで晩ご飯食べてくるんだろうなー…」
ポツリと呟いた言葉に、返す者は誰もいない。
不安だった。そして寂しかった。
ずっと独りで平気だった筈なのに、どうしてこんなにも弱くなっているのだろうか。
はぁー…とため息を吐いて上半身を起こし、ソファーの上で胡座をかいた。
パンッッと頬を叩いて気合を入れるとソファーから立ち上がり大きく伸びをする。
「落ち込んでても仕方ない!米三杯は無理だけどしっかり食べよ!買い物だーい」
無理矢理テンションを上げて財布をパーカーの前ポケットに入れて玄関へ向かった。
もしかすると、広い別荘に独りでいることが耐えられなかったのかもしれない。
さっさと靴を履いて外に出ると、あれだけ晴れ渡っていた空は分厚い雲に覆われていた。
「あれ?今日雨降るなんて言ってたかな…」
出発前に確認した天気予報では、確かずっと晴れだった。
湿度も上がっているのか、体にまとわりつくような空気に不快感を覚える。
そして、夾は大丈夫だろうか…とどんよりした空を見上げた。