第5章 それぞれの
離れの縁側に座って本を読んでいる由希の元にきた潑春と紅葉が、由希の横に腰を落とす。
2人が来たことに気付いた由希は本をパタンと閉じ、傍にそれを置いた。
「どーせアキトと一緒に居なくていいなら帰らせてくれたらいいのにねーッ!キョーだけズルイ。ボクもひまりと遊びたいなー」
後ろに手をつき、縁側の外に足を投げ出した紅葉が気怠げにそう言い放った。
「朝から春にべったりだっただろ?慊人は?」
「…さぁ?結構早い段階で、もういい。出て行け…って言われた」
「何か慊人の気に触ることでも言ったのか?」
うーん。と真っ青な空を見上げながら、本当に考えているのか、そうじゃないのか。ボーっとした顔をしていた。
「こないだのひまりのこと、思い出したら腹立つから…慊人の顔あんまり見ないように、してた。…だからかも」
「こないだのひまりのことって?」
あー。と納得した顔をしている由希の横で、2人の間に割って入ってきた紅葉が首を傾げている。
ひまりが慊人に怪我をさせられた事を知らない紅葉は、キョトンとした顔で2人の顔を交互に見ていた。
「…慊人にひまりの罵言を聞かされる事」
「バゲンって??」
「悪口のことだよ。紅葉」
本当の事を隠すと決めた潑春に由希も合わせると、紅葉は悲しそうに下を向いた。
「ひまりも…物の怪憑きだもんね…ボク達と同じように…縛られてるんだよね…」
紅葉はずっとひまりだけは自由だと思ったていた。
自分達とは違って、慊人に縛られていないんだと。
それを羨ましく思う時もあったが、実際は違っていた。
"物の怪憑き"だという事実を隠して今まで生きてきた彼女は、どれほどの物を背負って、苦しんでいたんだろう。
それを微塵も見せなかった彼女を想うと心が痛んだ。
「この先、ひまりが幸せになれるように…悲しまないように…願うことしか出来ないよ…ボクは」
口元の前で手を組み目を瞑る紅葉の頭にそっと、由希は手を置いた。
潑春もそんな紅葉の姿にフッと笑うと、近づいて来る2つの足音の方へと目を向ける。
そこには紫呉と、"宴会"に呼ばれるはずのない者が顔を下に向けて立っていた。