第1章 宴の始まり
予想外の答えに戸惑う。
強いじゃなくて…?
「……弱いから?」
小さい頃から何があっても笑顔を絶やさなかったひまりを強いと思ってた。この子は何て強いんだろう。どうしてこんなに強くいられるんだろうって。
それが弱さ故の笑顔??
「まっ。大人だとは思うよ。小さい頃からね。」
由希の代わりに激しく湯気が出ているポットを手に取り、それぞれのカップにお湯を注ぐ。
蓋を閉めてその上に重し代わりの割り箸を置いた。
「でも僕からすれば見てて痛いね。弱いから笑顔で誤魔化す姿が。子どもの内にワガママ言って泣き喚いて、落ち込んで、許されて…そうやって乗り越えて行くからこそ偽りなく笑えるようになるんだよ。あの子はずっとマイナスな感情全部に蓋をして見ないフリをしてるから。大人になる程その感情は出しにくくなるのにね。」
「それなら…それに気付かず救われていたと思っていた俺は…本当に…馬鹿だと思う。」
そんな今までの自分に腹が立つ。拳を握りしめて視線を落とす。
何を見てきたんだろう。
色々な話をしてたのに、なぜ気付かなかったんだろう。
「それに気付けなかった。なーんてとんでもない自惚れだよ由希君。人が本気で感情を隠せば、それが子どもだろうと他人が気付くなんてほぼ無理だね。親が自分の子どもがイジメられてたことに、本人から打ち明けられるまでずっと気付かなかったーなんてよくある話がその証拠だよ。」
そう言うと紫呉は出来上がったカップラーメンを机まで持っていき、割り箸をパチンと割って中をかき混ぜる。すると湯気と共に香ばしい匂いが漂い始めた。
「……紫呉は気付いてるじゃないか」
自分も同じようにかき混ぜながら、拗ねた子供のように言ってしまう。
麺をすすった紫呉がニヤリと笑いながら「君より大人で色々乗り越えてきてますから」と言われイラッとする。
熱々の麺で火傷してしまえ。
上顎の皮がめくれてしまえ。
なんて、また子供じみたことを思ってしまっている自分に呆れた。
紫呉はというと、偉そうに言ったものの自分も初めて気付いたのは、一度だけはとりの前で頬を一筋だけ流す子どもらしくない涙を流しているひまりを偶然みてからだけど…と思いながら、その事は黙ってラーメンを食べ続けた。