第5章 それぞれの
水鉄砲の引き金に指を置いて、戦闘態勢で地面を蹴った夾だったが目の前の光景に一気に拍子抜けした。
隠れていた木陰からすぐの所でひまりが地面にへばりついていたからだ。
こみ上げる笑いを堪えながら彼女に近付いてしゃがむ。
「おーい。始まってますけどー?」
見えている後頭部に数回水鉄砲を打ち込んでやると、バッと顔を上げた。
土や草がついた顔は羞恥心からか真っ赤に染まっており、悔しそうに口元を歪めている。
「た、タイム!木の根が悪い!やり直し!今撃つの禁止ー!!」
その様子からどうやら走り出す勢いのまま、足元の木の根に引っかかりコケたようだった。
夾はその姿を想像してしまい、堰を切ったように笑い始めた。
「おま…おまえっ…どんくさっ…くくっ」
口元を腕で隠しながら爆笑し始める夾に、更に恥ずかしさが増したひまりは、笑いを阻止するために彼の顔に水鉄砲を撃ち始めた。
「わらうなぁー!!!」
「おい!卑怯だろーが!タイムじゃなかったのかよ?!」
「私がルールです」
「どこの独裁者だよ」
顔にかけられた水を袖で拭きながら立ち上がると、倒れたままのひまりに手を伸ばす。
「ほら。怪我は?」
ひまりは少し驚きながらも差し出された手を取り、夾の力を借りて立ち上がる。
服についた土や草を手で払って、特に痛むところもなく「ありがとう。大丈夫」と返した。
「お前さ…」
彼女の手を取って起き上がらせた夾は、気掛かりだったことを思い出し僅かに眉を潜めて口を開く。
当の本人は、急にテンションが下がった夾を不思議そうに見て首を傾げていた。
「最近ちゃんと飯食ってんのかよ?前より痩せてね?」
「え?痩せた?そうかなー?」
そう言って服を捲り上げて脇腹を直に確認し出すひまりに「ちょっっ」と焦った夾が目を背けようとするが、予想以上の光景に二度見をして視線をそのままひまりに向けていた。
「うわっ!肋骨浮き出てるんだけど?!きも!?」
「…お前大丈夫か…マジで」
「たしかに最近、胃が小さくなったなーとは思ってたんだけど…これはちょっと…ダメなやつだ…よね?」
はははーと顔を歪ませながら笑うひまりは、浮き出たそれを隠すようにゆっくりと服を下げた。