第5章 それぞれの
ひまりと夾は、水を満タンに入れた水鉄砲を手に別荘を出て歩いていた。
今日も太陽が痛いほどに照りつけ、ひまりは水鉄砲日和だ!とはしゃいでいる。
「んで、どこでやんだよ」
「…砂浜?海で水調達出来るし!」
「それなら林の方が隠れる場所あんだし、ちっちぇー川もあっただろ」
「そうなの?!じゃあ、林で決闘だね!」
「決闘て…。ルールは?」
「とりあえず撃つ!撃って撃って撃ちまくって、より多く濡れた方の負け!」
「この天気じゃ濡れたところですぐ乾くだろうけどな」
「細かい事は気にしない気にしない!」
軽い足取りのひまりと違って、夾は呆れたようにため息を吐いた。
木の葉たちが影を作ってくれている林の中は、直接太陽が照りつけることもなく幾分か涼しさを覚えた。
ひまりが以前、由希から逃げ込んだ林の中をもう少し進むと夾の言う通り、小さな小川が流れていた。
"決闘"の場所をその辺りに決めたひまりは、次にある程度の範囲を決めていく。
「川からこっち側で、あの木とあの木まで!この範囲内で戦うこと!端と端からスタートね!」
ザックリと決め、移動しようとするひまりの名を呼んで呼び止める。
ヤル気が無さそうな顔の割には、水鉄砲を肩に担ぐ姿は"決闘"へのモチベーションが伺える。
「負けた方の罰的なん決めねーの?」
「うーん。じゃあ夾が負けたら晩ご飯素麺ね」
「ふざけんな!どんだけ素麺食わすんだよ?!」
「負けなきゃいいじゃーん」
ニヤリと意地悪く笑うひまりに、青筋を立てて目をピクピクさせる夾は「ぜってー負けねェ」と急に意気込み始めた。
「お前が負けたら今日1日俺のパシリだかんな」
「うっわ!趣味悪!絶対嫌だしそれ!」
「負けなきゃいーんだよ」
彼女の真似をして意地悪く口角を上げる。
むっと口を一文字に閉じて凄むひまりをハッと鼻で笑った。
上を見上げて何かを探すひまりがある一点で視線を止めて指を指した。
「あそこ!あの鳥が飛び立ったら開始の合図ね」
早く位置についてーと決めた範囲の端にそれぞれ行くと木の影に隠れながら鳥の動向を観察する。
小さな鳥が木の枝を蹴って飛び立った瞬間、ひまりと夾は武器を片手に木陰から勢いよく飛び出した。