第5章 それぞれの
海ー…は夾が水苦手だから疲れるだけだろうなぁ…却下。
スイカ割り?いや、春がいないなら割る人がいない…却下。
夏の山といえばカブトムシ取り…?いや、私あの足とか、足とか足とかが無理。却下。
他はー…楽しいこと、楽しいことー…
深刻そうな顔で頭を抱えるひまりに、夾が笑いながら「とりあえず紅葉のオモチャ箱漁ってみっかー」とリビングへと戻っていく。
「え?オモチャ箱?なにそれ??」
ひまりにとって心躍るキーワードだったようで、目を輝かせながら夾の後についていく。
「紅葉のやつ、遊び道具ばっか入れたカバン持ってきてんだよ。えーっと確かこの辺に…」
「勝手に紅葉の荷物触ってもいいの?」
「いいだろ別に。その為に持ってきたんだろ…あ、あったあった」
夾が座り込んで、大きく膨れ上がった鞄のチャックを開けると、中からトランプやらオセロやら虫かごやらが色々と出てくる。
この"避暑の旅"を最大限に楽しむ予定だったであろう紅葉が、ひまりは何だか気の毒に思えた。
「紅葉…凄い楽しみにしてたんだろうなぁ…」
「そういうのも全部潰しに来たんだろ」
怒気を含んだ声で静かに呟く夾に、下を向いて落胆する。
ひまりのそんな姿に「俺らまで落ち込んでてどーすんだよ」と頭を軽く小突いて、顎で選べよ。とひまりに促した。
気持ちを切り替えて夾の隣に座り鞄を覗き込むと、ひまりが知っている物よりもかなりリアルにつくられたアサルトライフル型の水鉄砲が5つほど入っていた。
それを手に持ち、目だけで「これが良い」と夾に訴えると明らかに嫌そうに口元を歪ませた。
「…俺が水嫌いなの知ってての選択か?」
「当たらなければいいんだって!」
ひまりはニッコリ笑うと水鉄砲を2つ手に取り、1つを夾に手渡すとバッと勢いよく立ち上がる。
「よし!気持ち切り替えよ!水鉄砲大会だー!」
「もうちょい落ち込んどけ。めんどくせーから」
そうは言いつつ呆れたように笑う夾は、彼女に言われた通りに水鉄砲を手に先に水を入れにキッチンへ向かったひまりの後を追った。