第5章 それぞれの
寝起きにしてはハッキリとした意識の中で考え事をしていたひまりは、洗面所の蛇口から流れ出る水をボーっと眺めていた。
なんだか心臓の動悸が激しくなったり、顔に熱が集まってきたり…自分自身の体調の変化に困惑していた。
もしかして発作が酷くなってきたんじゃ…と心配もしていた。
そして昨日の心臓が爆音になった出来事を思い出す。
なんかもう由希にしても夾にしても急に身長伸びてたり、顔つきも男の子ーって感じになってたり変わりすぎなんだよね!
そりゃ私も戸惑うってーの。
何故か苛立ちに変わっていく感情を切り替えるように、コップに入れた水を口に含んだその瞬間に後ろから声を掛けられた。
「ひまりお前、水だしっぱな…」
ブフォッッ
「きっ…たねぇなぁ?!?!」
含んだ水を洗面所の流し台に盛大に吹き出した。
目の前の鏡にも水飛沫が飛んでおり、タオルで焦りながら拭くとくるっと驚かせた張本人に顔を向ける。
「なんでいるのよ?!」
「そりゃいるだろーが!?ってか口!たれてんぞ!拭け!」
ひまりから強引にタオルを奪い取ると、彼女の後頭部を支えながら雑にゴシゴシと口元を拭きはじめる。
ひまりの目に、「ったく…」と言うのと時を同じくして動く喉仏が視界に入り、さっき脳内で浮かんだ"男"という言葉が思い出され自身の顔に熱が集まるのが分かった。
タオル奪い返すと、顔半分を隠すように口元を自身で拭き始めた。
「なんでみんな男なんだ!?」
「バグってんのか。それともまだ寝惚けてんのかよ」
思わず口に出てしまった言葉に、夾は丁寧に突っ込みを入れると呆れた顔で取り乱す彼女を見ていた。
「もうアイツ等行っちまったぞ」
アイツ等…とは、今日も慊人に呼び出されている十二支のメンバー。
どうやら寝起きが最悪なひまりを待っていると時間に遅れる。と既に出て行ってしまったようだった。
「あー。そっか。慊人んとこ行かなきゃだもんね。今日も遅いのかな…」
夾の言葉にやっと冷静になって、思い出した慊人のことに眉尻を下げていると軽く頭をはたかれる。
「気にしてもしゃーねーだろ。で、何かしたいことねーのかよ?海か?」
1日の予定を決める為にひまりは、ウーンと人差し指を口元に当てて思考を巡らせ始めた。