第5章 それぞれの
「カッコイイよ。由希は」
素直にそう思った。
少しずつでも前に進もうと努力して頑張ってる彼はカッコいいと思う。
お疲れ様と称賛の意味も込めて、ハイタッチを促すように片手をあげると、少し照れたような顔で私の手に優しく触れて手を重ねた。
その手をギュッと握られ引っ張られたかと思うと、目の前には由希の服の胸ポケット。
一瞬のことに驚いて顔をあげようとした時、私の耳にかかる髪をかき上げて耳に由希の息がかかる程に顔を近付けられた。
もう片方の手を反対側の頬に添えて。
由希が息をするたびに直接当たる吐息がくすぐったくて、僅かに肩を上げてギュッと目を閉じた。
顔も中性的で華奢な由希だが、頬に触れる大きくて骨張った手は"中性的"なものではなかった。
だんだんと顔が熱くなってくるのが分かる。
え、いや、由希って…こんなに"男の子"だっけ…?
「キミが…。ひまりがいてくれたから。だから平気だよ。ありがとう」
「ま、待って…ちょ、ちょっと…こそばゆいと言うか…」
恥ずかしいというか…
とりあえず耳にかかる息がくすぐったいのと、何か近過ぎるのとそのー…
心臓の鼓動が早すぎて、動揺が隠しきれなくて視線を右左に忙しなく移す。
触れられている部分が更に熱を集めている気がして、この心臓の鼓動が全部聞こえてしまっている気がして、早く離してほしかった。
「ちょっと照れます…さすがに…この距離…」
とにかく早く離れてほしくて放った言葉に由希はゆっくりと顔と手を離してくれた。
耳元から離れた由希に視線を送ると、驚いたあとにクスッと可愛らしい顔で笑った。
いつもなら、めちゃくちゃ可愛いなぁ!もう!となるその笑顔が、今はどうにもそう思えなくて、どうしたんだ私。と脳内でプチパニックが起こる。
「ごめんごめん。けど、その言葉は光栄だね。それに…俺遠慮しないって言ったよね?」
可愛らしい顔から一変して、男らしい顔になる由希に戸惑いすぎた私は、彼が今言った言葉が何だったのか、頭に入ってこなかった。
今なんて言った?
いや、もうこの際そんな事はどうでもいいや。
いや、良くないけど。
天然なのか計算なのか。
どっちなのか分からないけど、急に私の中で"異性"になった由希になんだか翻弄されてしまった。