第1章 宴の始まり
紫呉がくっくっと笑いがら「ひまりはやっぱり面白いねー」と目尻に出た涙を拭った。
「紫呉。あの傷、慊人がやったんでしょ?なんで慊人はひまりに手をあげるんだ?」
口元が緩んでいる紫呉に険しい顔をして由希が聞いた。
「あー…5年前、ひまりが出て行ったときの慊人さん覚えてるでしょ?だからじゃない?」
全く答えになっていなかった。
「そもそも何で物の怪憑きでもねぇひまりが、慊人に固執されてんのかってことだよ。今回もおかしいだろ。アイツが勝手にひまりの身の振り方まで決めやがって。」
夾が苛立ちながら持ってきたコップに麦茶を注ぐ。
昔から不思議に思っていた。
十二支ではないひまりに、自分達と同じように慊人に依存され、慊人を恐れていることが。
もしかして物の怪憑きかと疑ったこともあったが、一度分家の男の子にぶつかられた時は変身していなかった。
何かひまりを縛り付けるものがあるのか…考えても答えは出なかった。
「うーん。出て行ってたとは言え、ひまりも草摩の"中"の人間だからでしょ。今回のこともひまり1人ではどうにか出来る年齢でもないし、草摩の"中"で1人ぼっちで住まわせる方が不安だと思わない?」
ひまりも納得済みだしね。と付け加えると、まあ確かに…と言ってしまいそうだったがモヤモヤが取れない。それを察した紫呉に
「聞きたいことがあるなら本人に聞けばいいじゃない」
意地の悪い笑顔で言われ、それ以上は何も言えなかった。
それは夾も一緒だったようで、舌打ちして階段を上がって行った。
お昼にまだ何も食べてないことを思い出した由希は、カップラーメンを食べようとキッチンに向かう。
おなじように付いてきてカップラーメンを持ってニコニコしている紫呉を横目に見て、わざとらしくため息を吐いて2つ分が作れる水を電気ポットに入れて沸かし始めた。
ポットの口から出る湯気をぼんやり見つめながらひまりのことを考えていた。
「ひまりは…ひまりはどうしてあんな風に笑ってられるんだろう。家を無くした所なのに。慊人にも傷つけられて…あんな何も無かったように…笑えるんだろう」
「それはねぇ、由希君。ひまりが弱いからだよ」