第5章 それぞれの
ひまりはまるでそこから視線を外せないかのように、ただ一点。水平線と一体になっていく夕陽を眺めていた。
物思いに沈んでいるその姿を包み込むように、オレンジ色の光はひまりの白いTシャツをも同じ色に染めていく。
堤防に腰掛けて足だけを海側に投げ出している彼女の後ろ姿は、逆光になっていて黒いシルエットだけが映し出されている。
そのシルエットだけでひまりだと気付いた夾は、探していた人物が見つかり安堵で顔を緩ませたあとにキュッと引き締めた。
「ひまり!!」
大きめの声で彼女の名を呼ぶと、予想外のことだったのかひまりの肩がビクッと跳ねた。
夾の声に僅かに怒りが込められているように聞こえ、ひまりは恐る恐る振り返る。
案の定、彼は少しばかり怒っているようだった。
「いつまで片付けサボってんだよ。とっくの昔に紫呉のやつ戻ってきてんぞ」
「あ!そうだった!紫呉探してたんだった!」
「…お前何してたんだよ」
忘れてた!と笑いながら堤防から飛び降りると、呆れた顔の夾のもとへと小走りで走ってくる。
「あはは!黄昏てたってやつ?わざわざごめんね!探してくれてた?」
「…まぁな。おせーから。お前」
「ありがとう。じゃあ帰ってみんなでご飯だー!」
「いねぇよ」
「え??」
目を伏せて吐き捨てるように言う夾に、ひまりは頭にハテナを数個浮かべて首を傾げた。
夾は軽く息を吸い込んで吐き出すと、瞳を鋭くさせて前を見据えた。
「来やがったんだよ。慊人が。水差しに来たとしか思えねぇ。じゅ……アイツ等を自分が泊まる離れに呼び出したから、俺とお前は留守番」
慊人の名を聞いて石のように表情を固くしていたひまりに気付き、彼女の頭を軽く叩くと「帰んぞ」とポケットに手を入れて歩き出す。
「あぁ…うん」
「…なんだよ?」
「…いや、由希達…大丈夫かな…って」
歯切れの悪いひまりの返答に振り返ると、彼女は不安そうに眉を僅かに下げて目を伏せていた。夕日に照らされた横顔は、顔の凹凸に影を作り艶感を増した肌と唇は、いつもの彼女からは微塵も感じさせない優艶さを滲ませていた。
夾は柄にもなく"綺麗"なんて言葉が頭に浮かんでいた。