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ALIVE【果物籠】

第5章 それぞれの



「なぁ、ひまりは?」

紅葉と共に庭に戻ってきた夾が尋ねると、由希と後片付けをしている潑春が「先生探しに行った」と一瞬止めた手をまた動かし出す。

夾は面白くなさそうに顔を歪めると「なんだアイツ、片付けのサボりか」と悪態をついて、紅葉と後片付けを手伝い始めた。


その時、爽やかな潮の香りを乗せた風の中に生温いような何とも言えない不快な風が吹いた気がして、由希は片付けの手を止めて眉を潜めて風向きの方へと視線を向ける。


「…?」


何となく、嫌な感じがした。

潑春が由希の視線の先を見て、何もないことを確認すると「どうしたの?」と声をかける。
その声にハッとした由希が取り繕うように笑うと「何でもない。気持ち悪い風がふいたなーと思って」と片付けを再開し始めた。


まぁ、気のせいか。と自分自身の中で結論付けて。











別荘から離れた海が一望できる、柱や屋根ベンチ全てが木でできた東屋で紫呉はゆったりと座りながら読書をしていた。

斜めに差し込んで足元を照らしていた太陽の光が影になったことに、誰かが来たと気付いて読んでいた本を閉じると、そちらに視線を向ける。
真夏だというのにジャケットまでしっかりと身につけたはとりは汗ひとつかくことなく涼しい顔をして立っていた。
その瞳に僅かに怒りと呆れを宿して。


「あっれー!はーさんも避暑りに来たのー?」

「戯けるな。全てシナリオ通りの癖に。また慊人にいらん事を吹き込んだだろ」

「何のことか、さっぱりー」


紫呉の戯けたような口調に、はとりは大きなため息を吐いて紫呉の横に腰掛けた。


「で、来たの?」

「だから俺もいる」

「あぁ、そうね。お気にのはーさん連れてきたのね」

「この間のひまりの件もあるんだ。もう少し考えてやれ」

「流血事件ね。流石にあれは僕もビックリ。そしてちょっと反省してますよ」

「そうは見えないがな」


はとりはまた大きなため息を吐くと、足を組んでタバコに火をつけた。


「まぁ、でも掻き乱してもらわないと。勘違いの神様に思い知らせるには」


暗い笑みを浮かべる紫呉を横目でチラリと見ると、肺いっぱいに吸い込んだ煙を一気に吐き出す。


「…怪我の治療はゴメンだからな」


呆れたように紫呉に視線を向け呟いたせめてもの願いは、煙と共に消えていった。
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