第5章 それぞれの
夾がトイレにでも行くのか、立ち上がって伸びをした後別荘の中へと戻って行くと、それに着いていくように「ジュース取ってくるー!」と紅葉も後を追う。
その姿を見送った後、ひまりは食べ終えたスイカの皮をゴミ袋に入れ立ち上がり、お尻をポンポンと払う。
「じゃあ私は紫呉がいないか辺りぐるーっと回ってくるね」
それを聞いた由希が自分も一緒に、と立ち上がろうとするが潑春に肩を持たれ阻止されてしまい潑春と共にひまりの背中を見送ることになってしまった。
振り向いて潑春の顔を見てみると、いつもの潑春らしくない少し難しそうな顔をしていて由希は首を傾げる。
「…春?なんだよ?」
「由希、気付いてた?昨日」
考えるように顎先を指で持つと、ちらりと視線だけを由希向ける。
春がなにを言おうとしているのか、その意図が分からず由希は更に怪訝な顔をして「何のこと?」と質問で返した。
そんな由希の様子に2、3度瞬きをしてから春も目の前の彼と同じように首を傾けた。
「俺の…勘違い?かも?」
「だから何がだよ」
「由希もひまりが黒って意外じゃなかった…?てっきり俺、ピンクだと思ってた」
「はぁ?」
突然の話の切り替わり、そして黒やらピンクやらの話を持ち出され全く訳がわからない由希は何のことかと眉を潜めながら思考を巡らせる。
数秒の沈黙の後、由希の顔に一気に熱が集まり、白い肌を真っ赤にさせた。
昨晩、ひまりの服を拾いあげたときにちらりと見えてしまった物。
見ないようにと他の衣服で隠し、視線を向けないようにしていたが一度見えてしまったそれは彼の脳裏に焼き付いていた。
彼女が身につけていた漆黒の下着たちの姿が。
「おーまーえーはー…!!」
「やっぱり…ピンクじゃなきゃ…」
「発言が紫呉化してきてるぞ春!!」
恥ずかしさと彼にこれ以上喋らせるのを止めるために、声を荒げて言う由希に「それは…困る」と潑春は言葉の割に特に気にしていない様子でボーっと空を眺めていた。
そんな潑春の態度に、諦めのため息を吐くと残りのスイカをまた食べ始めた。
こんなことならひまりについていけば良かった。と潑春を恨めしく睨みながら。