第5章 それぞれの
「春…スイカ割りの意味なくなってる…」
「でも起源的に言えばあながち間違ってな…んっ」
「お前言うなよ。食う気失せっからぜってー言うなよ」
由希が言ったスイカ割りの意味をフォローしようと、ひまりが起源の話を口にした所で背後にいた夾に後ろから手を回されて口を塞がれる。
夾の手を両手で掴み、口から剥がすと顔だけを後ろに向けて「見かけによらず繊細だなぁー」とひまりはケラケラと笑った。
潑春が割った小さいスイカを食べ終えた紅葉が、今度は僕がやるーと置いてあるスイカを持ち上げる。
「棒無いなら、もう投げちゃおっかー」
「それもうスイカ割りじゃねぇだろ!?」
「タオルで目隠しして、キッチンに包丁あったからそれでヤッちゃおー」
「お前今ヤルの意味違ってたよな!?殺るの意味で言ったよな?!起源の話引きずりすぎなんだよ!?」
間髪入れずに突っ込みを入れる夾に、「今日もキレッキレだねー」とひまりと紅葉が顔を見合わせて笑う。
そして、その後ろでは潑春がもうひとつスイカを手刀で割っており、それを見ていた由希が苦笑いで「まぁいいか」と潑春からスイカを分けてもらい食べ始めていた。
破茶滅茶なスイカ割りは潑春が手刀で2つ割っただけで幕を下ろし、今は4人で座ってスイカを食べていた。
「そういえばね、ヒロとキサも誘ってたんだけど来れなくなっちゃったって朝に連絡あったの。カグラも誘ったけど、返事来ないからムリなのかなー」
肩を落として残念がる紅葉にひまりが「まあ、急だったし仕方ないよ」と優しく肩を叩くと、そういえばと辺りをキョロキョロし出す。
「どうしたの?ひまり?」
何かを探す素振りを見せる彼女に、由希が問いかけるとどうやらふらーっと出て行った紫呉を探していたらしい。
「紫呉もスイカ食べるよねー?いつ帰って来るんだろ」
「先生…小説家だから…ネタ探しに行ったのかも」
「はぁ?アイツがこんなとこ来てまで仕事する訳ねーだろ。何も考えねーでフラフラしてるたけだろ。どーせ」
今朝、揶揄われたのを根に持っているのか、夾は鼻で笑うと手に持っているスイカに乱暴にかぶりつきシャクシャクと音を鳴らしていた。