第5章 それぞれの
「ひまり〜〜〜ッッ!!」
僅かに目尻を涙で滲ませ、夾はひまりのこめかみを両手で挟むと不機嫌な表情でひまりに詰め寄る。
だが、当のひまりは眉尻を下げてケラケラと笑い始めた。
「どんな夢…っ!あははっ!き、夾にカツアゲされたっ!あははっ」
彼女の夢に自分が出てきたこと、そして自分の名前を口にしながらあまりにも可愛らしい表情で笑うひまりに夾は頬が緩みそうになる。
それを誤魔化すように顔の筋肉を引き締め、こめかみに置く手に力を込めた。
「俺はそんなことしねェ〜〜〜ッ!」
「あははっ!ごめんってー!!」
ケラケラ笑い続けるひまりに、何だか本当に自分の失態で笑われているような気がして更に手に力を入れるが、笑いが止まることはなかった。
「朝から楽しそうだねぇ」
突如聞こえた昨日までここに居なかった人物の声が聞こえ、夾はジャレ合っている所を見られまいと、ひまりの前から飛び退いた。が、時すでに遅しだったようで彼はニヤニヤとしており、夾は顔を赤くして顔を歪めていた。
一方ひまりは嬉しそうに目を見開いて「あー!紫呉!」と指をさすと、彼はやっほーと片手をあげてニッコリと笑っている。
「ひまり大変だったね。夾君にカツアゲされて」
「そうなの!ひっどいよねー」
「してねェよ!!!」
ひまりと紫呉は揶揄うように口元に手を当ててじとーっと夾を見る。
その揶揄いにまんまと乗せられて、威嚇するように怒りだす夾に今度は2人でケラケラ笑い始めた。
「紫呉無理かなって思ってたけど来れたんだね!」
一通り笑い終えて紫呉の方を向くと、腕を組むように両袖にそれぞれの手を入れてパチっとウィンクをする。
「出来る大人は仕事が早いんだよっ」
「ケッ。どこが出来る大人だよ」
先ほどの揶揄われた仕返しと言わんばかりに夾は悪態をつくが、全く気にしてない様子で紫呉は「あ!そうだ!」と何かを思い出したように人差し指を立てて視線を上に向ける。
「スイカ割りをするからもみっちが、ビニールシート探しててーって。由希君と春君ともみっちはさっきスイカを買いに出ていきましたよ」
その言葉にひまりは目を輝かせて夾の腕を掴むと「早く探すよ!」と乗り気でない彼を引っ張ってリビングへと向かった。