第5章 それぞれの
幼い頃、毎日慊人が隔離部屋で…暗い部屋で暗い話をしにくる。
全てを否定され、全てに絶望させられた。
——— 鼠は嫌われ者なんだよ
——— 僕がかまってやらなきゃお前が存在する価値なんて無いんだよ!!
毎日聞かされる否定の言葉は、だんだんと本当にそうなんじゃないかって思い始めて。
——— ネズミが全部悪いんだ!お前なんかこの世から…
幼い夾に言われた言葉に、いなくなれば初めて誰かの役に立てるだろうか、と。
必要とされないなら、今ここにいる自分に意味なんてないんだ、と。
そんな風に思って居た頃、ひまりが隔離部屋にこっそり来るようになった。
その女の子の存在は知ってた。
物の怪憑きではないが、呪いのことも知っている本家に住んでいる女の子。と聞かされていた。
初めてひまりに会った時の不思議な感情は今でも覚えてる。
良かった…。
一筋の涙と共に心の底から安堵した。
そして何故か誇らしかった。
ひまりの存在が、俺の存在している理由だとすら思えたんだ。
ずっと不思議だった。
慊人に会ったときとも、他の十二支と会った時とも違うあの感情が何だったのか。
やっと、やっと分かった。その理由。
「幼い…頃。自分の存在が無価値な…物に思っていた頃…ひまり、よく会いに来てくれてたよね」
俺の問いにひまりは眉を潜めて長い睫毛を下に向ける。
まるで何処か罪悪感を感じているような、そんな表情だった。
「…最初は、償いの…つもりだった…。命を分けて…もらったこと申し訳なくて…。自分の為だけに由希に会いに行ってた。絶望の中にいる由希に寄り添えば…命を吸い取った"罪"が軽くなる気がして…狡い考えで…」
「今は?」
ひまりに着せていたTシャツを着直した春が彼女の言葉を止めるように問う。
「今も罪悪感、無くすため?楽しそうにしてるの、嘘?」
「違う!!嘘じゃない!楽しいよ、幸せだよ…でもあんな話の後じゃ…ただの詭弁にしかならないじゃない…」
両手で顔を覆って下を向くひまりはもしかしたら泣いてるのかもしれない。
償いでも、罪悪感を消すためでも理由はなんだっていい。
あのタイミングで会いに来てくれたことが、俺には意味があったから。