第5章 それぞれの
「十二支同士で、私だけ…変身するのも…私は半端者だから。鼠…だけど十二支の一員って認められてないんだよ。その証拠に小さい頃、赤ちゃんの杞紗に抱きついたら変身した。…十二支以外の異性に抱きつかれても変身する時としない時…がある。それも皆んなと違う。私だけ…縛りのルールが違う。私は…ただ奪っただけなの。由希…の命を奪っただけの…存在…。死ぬべきだったんだ。産まれたときに」
ぎゅーっと小さくなるひまりの背中。
由希の頭の中では所々抜けていたパズルのピースがピッタリとはまっていくような、そんな感覚があった。
分家の男の子にぶつかられても変身しなかったことも
昔から、紅葉や楽羅に抱きつかれそうになったら全力で回避してたのも
慊人に依存されているのも
俺の体調を人一倍心配するのも
昔からひまりに感じていたなんとも言い表せない特別な感情も…
俺とひまりは、ある意味2人でひとつだったんだ。
すべてに辻褄があった。
「騙してごめん…春…。春が由希のこと大事なの分かってて……黙ってた。最低だよね…。怒るよね…もう顔も…見たくないよね…」
震える声で下を向いたままのひまりに、潑春が腰を上げて彼女の前まで行くと目線が合うようにしゃがむ。
その気配に気付いたひまりがゆっくり顔を上げると、怒りに満ちたような鋭い目。
それを見たひまりは絶望感でフッと瞳に宿っていた光が消える。
「怒ってる。俺の大切な人間、これ以上傷付けないで」
潑春の言葉に、目を伏せ「ごめんなさい」と言おうとしたが声が出せなかった。
僅かな希望が打ち砕かれたように顔を歪めた。
2人のやりとりを見ている由希は、腕を組んで近くの木に寄りかかりながら静観することを決めたようだった。
ひまりは自分に伸びてきた潑春の手にビクッと肩を縮こまらせた。
殴られる。と思い目をキツく閉じる。
しかしやってきたのは痛みではなく温かさ。
恐る恐る薄目を開けてみると、両手で頬を包み込まれていた。
「怒ってる。俺の大事なひまりに、"死ぬべきだった"って…言ったこと」
ひまりは状況が理解出来ず、目を2、3回瞬きさせた。