第5章 それぞれの
嘘。泣いたよね。
そう言葉にすることが出来たらどんなに良かっただろう。
また誤魔化されたらと考えると、喉まで出た言葉を飲み込んだ。
心の内側に入れられない。と言われている気がして言えなかった。
由希は眉尻を下げて少しだけ首を傾けると切なく笑った。
瞼を撫でた指を滑り下ろし、今度は髪を撫でるようにしてその毛先をそっと握る。
「ひまり、俺まだまだガキだし不器用で心配もかけて…乗り越えなきゃいけないことも、まだたくさんあるけど…」
ひまりは僅かに首を傾けたが、何も言わずに由希の言葉を一言一句逃すまいとしているかのように彼の目を見つめていた。
「もう遠慮しないって決めたんだ。周りにも、自分の感情にも。遠慮したくない。乗り越えて強く…強くなるから…」
ひまりがまるで包み込んでくれるように優しく微笑んで小さく頷く。
由希も釣られるように微笑んだあと、ふと夜空を見上げた。
無数に輝く星の間を一筋の光が長い尾を引いて消えた。
由希が「あっ」と声を上げたときには既に夜空に溶け込んで見えなくなっていて、ひまりはその姿を見ることができなかった。
「なになに??」
「流れ星…もう消えちゃったけど…」
「うっそ!!願い事した?!」
「あっ。て思った時にはもう消えてたから…」
「あっちゃー」と残念がるひまりの瞼を見て思い出したように憂いが帯びた顔をした。
「じゃあ、ひまりが叶えてよ。俺の、願い事」
「…私に叶えられることなら」
こんな表情で言えば、ひまりが断れないと分かっていて敢えて言う自分はなんて狡いんだろうと心の中で静かに自嘲する。
ひまりの返事を聞いて、片手で彼女の耳を親指と人差し指の付け根で挟むようにうなじまで包み込み、至近距離で大きな瞳を見つめた。
「…抱きしめても、いい?」
たまらなくひまりを抱きしめたくなった。
俺を探して来てくれたことに
泣き腫らしたその瞳に
包み込むように笑う姿に
流星に背中を押されて伝えた願い事。
すぐに変身してしまうが、それでもいい。
たった一瞬だけでも彼女を抱きしめて、その温もりを感じたい。
それ程までに、いつの間にかひまりが愛おしい存在になっていた。