第5章 それぞれの
そういえば由希は大丈夫だろうか。
彼が熱を出していたことを思い出し、また急に不安感が押し寄せる。
まだリビングにいるだろうか…
焦る気持ちを抑えて洗面所で顔を洗ってから部屋を出た。
リビングは明かりがついていて楽しそうな話し声が聞こえる。
その声にホッとして顔を出すと、潑春と紅葉がソファーに座りお菓子を食べていた。
「ひまり!!ダイジョーブ?よく眠れた?」
私を見つけた紅葉が笑顔で出迎えてくれた。
「大丈夫だよ、紅葉。ありがとう。夾と由希…は…?」
「キョーはお部屋にいるよー。ユキは熱はもう下がってね、ちょっとお散歩するーって出て行ったよー」
「え、散歩?こんな時間に…なんで…?」
この場にいない由希のことを聞くと、まさかのお散歩。
由希に会いたかったんだけど…どこにいるんだろう…。
時計の針は8を指していて、外ももう暗い。
私が不可解な面持ちで聞くと、ボリボリとお菓子を食べている春がこちらを見て私の顔をジーっと見つめた。
「…由希は多感なお年頃」
「シシュンキとも言うんだよね!ボク、知ってるよー!」
「由希より年下のキミたちが言うことではないよね?」
紅葉の頭を春がエライエライと撫でる横で軽く突っ込むと、今度は私の前に立ち上がって紅葉にしていたように頭を撫で始めた。
「…?どうしたの?急に?」
「なんとなく。…由希、多分海の方にいる。風に当たってくるって、言ってた」
最後に頭をポンポンとしてから、まるで私の心を読んだかのように由希がいそうな場所を教えてくれた。
「ちょっと私、由希のとこ行ってくる。ありがとう春」
私がそう言うと春はソファーに座り直し、片手を上げてまたお菓子をボリボリ食べ始めた。
「…フクザツ?」
部屋を出て行くひまりの背中を見送った後、無表情で食べ続ける潑春の顔を紅葉が覗き込むと「紅葉、気付いてたんだ」と紅葉を見ずに答える。
「ハルは結構分かりやすいからねー。…じゃあ、ツライね」
紅葉は潑春の肩に頭を乗せる。
「男には出しゃばっていい時と悪い時がありマス。今回は後者」
コップのお茶を飲み干して、やっぱり表情を変えずに言う潑春に、紅葉は少しだけ切なく笑って「そっか」と返した。