第5章 それぞれの
いや、わかる。そうだよね。なんでお前がそんなに落ち込むんだってなるよね。
「由希が熱出して、心配になったってだけで…」
嘘は言ってない。
「…それで普通そんなに落ち込むか?何だよお前。…ホレてんの?」
私は目を見開いてパチパチさせた。
何か前にもこんなことあったよね?
春のこと好きなのかーって…。
前も思ったけど、夾って実は恋バナ好きなんだろうか。
「いや、違うけど。夾って実は乙女なの?恋バナ好きなの?」
「ちっげーよ。熱くれぇでそんなに落ち込むなら、そう思うだろ」
「そういうもん?よくわかんないなぁ…」
「…そうじゃねぇなら何でそんなに落ち込むんだよ?」
心底理解出来ないとでも言いたそうに夾は首を傾げる。
…説明のしようがない…。
これを分かってもらうには、私が鼠憑きだという説明が必要で…。
「えっと…由希は体が弱いから…ちょっとしたことでも、心配になるというか…そんな、感じ」
「ふーん。ただの心配性かよ」
なんとか納得してくれた夾がベッドにドカッと座る。
「ねぇ、夾…。一個聞いてもいい?」
「いいけど。なんだよ?」
私もずっと疑問に思ってた事があった。
「由希に勝つことにこだわるのって…理由、あるの?」
聞いてもいいことなのか、分からなかったけど知りたかった。
私の問いに眉を潜めて険しい表情になる。
聞かれたくなかったことだったんだろうか…。
聞いたことを後悔していると、夾が話し始めてくれた。
「お前も…知ってるだろ、十二支の話。猫は鼠に騙されて宴に参加できなかったって。それで言われたんだよ。慊人に」
慊人の名前に背筋がピンと伸びる感じがした。
なにを…
「何を…言われたの?」
夾は怒りを宿した瞳で私から目を逸らす。
その目の先にはまるで慊人がいるように、その時の記憶を思い出しながら話しているようだった。
「"猫は鼠に絶対勝てない。そういう風に出来てる"ってな」
"そういう風に出来てる"
私も慊人に何度言われただろう。
お前は中途半端な存在だよって。
何をしても中途半端にしかならないように"出来てる"って…。
実際今までずっと、そうだった。
何をしても完璧になることはなくて。
抗おうとしても結局慊人の言う通り"そういう風"になってきた。