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ALIVE【果物籠】

第5章 それぞれの




ひまりは別荘で与えられた部屋に向かう途中、あるドアの前で立ち止まった。

【ぜったい起こすな】と殴り書きで書かれた紙をドアに貼り付けているこの部屋は、不機嫌になって1人で先に別荘に戻った夾の部屋だ。


まんま拗ねた子供じゃないコレ。

貼り紙を指先で触れながら、夾がコレを貼り付けた時を想像するとフフッと笑ってしまう。



——— 鼠の命を吸い取ったのは誰?


急に思い出される言葉。

貼り紙に手を置いたまま、キツくまぶたを閉じて下を向いた。


由希が体調を崩す度に思い知らされてた。

小さい頃から。


だから私は…償いのつもりで…



ガチャ


「…お前何やってんの?」


急に開くドアに目を見開いていると、同じく驚いた顔をした夾がそこにいた。


「き、夾…あれ、寝てたんじゃ…」

「…起きてたよ。何か用か?」


ドアの枠に体を預けて腕組みをしている夾は、貼り紙の雰囲気通りどうやら機嫌が悪そうだった。


「いや、何でもないよ。ごめん、邪魔して」


笑ってその場を早く立ち去ろうとしたが、腕を掴まれて部屋の中に引っ張られる。


「え、ちょっ」

「へったくそ…。とりあえず中入れ」


下手くそからの中入れってちょっと意味わからないんですけど?!

困惑したまま、部屋の中に入ると夾が手を離して振り返る。


「え?いや、夾出掛けようとしてたんじゃ…?」


部屋から出てきたからどこか行こうとしてたのかと思ったけど、違ったんだろうか。


「足音が部屋の前で止まったままだったら見に出んだろ。ンで?何があったんだよ?」


なぜバレる?

へったくそってあれか。
笑うの下手くそって意味だったのね。
え、どうしよー…なんとか誤魔化せる…かなぁ


「んー…。特に…」

「その、んーってやめろ。誤魔化すとき絶対言うだろそれ」


私は目を見開いて動きを止めた。

そんな癖あったの。
全然気付いてなかった…。

…とりあえず、正直に言うしかない…か。



「由希が…熱出し…たの」

「…それで?」

「それだけ…です」

「…は?」


夾はそんなことで?みたいな顔で私を見ていた。


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