第5章 それぞれの
別荘に着くと、それぞれ順番にシャワーを浴びていきL字の大きなソファーがあるリビングに、部屋でふて寝している夾とシャワーを浴びに行っている紅葉を除いた3人が集まっていた。
体温計でやはり微熱だったことが分かった由希は、ソファーをベッド代わりにして横になっている。
同じくソファーに腰掛けている潑春。
ひまりは由希の横でカーペットに座り心配そうに由希の顔を覗き込んでいた。
「由希…平気?」
「大丈夫だよ、ひまり。ちょっと日差しにやられただけだから。そんなに心配しないで?」
ニッコリ笑う由希に「…うん」と歪な笑顔で返す彼女の落ち込み具合は、いつものひまりからは想像がつかないものだった。
「俺、元々体弱いからよくあるんだよ。ひまりも知ってるだろ?時々少し熱出すって」
気を使わせないように由希が言うが、逆効果だったかのようにひまりの顔は陰を濃くしてさらに落ち込んでしまったように見える。
その様子に由希は困惑していた。
「ひまり…俺が由希、みてるから部屋で休んで。海に入ったんだし、疲れた顔、してる」
潑春の言葉に「でも…っ」と異議を唱えようとするが、隣にしゃがんだ潑春に4本の指で口を押さえられひまりは言葉を押し込んだ。
潑春はそのまま寝ている由希のお腹辺りに頭を乗せると、いつもの無表情で「俺と由希の…ラブシーン…見たいの?」とさらりと言う。
すると「オイ…」とすぐさま不機嫌そうな由希の声が返ってきた。
そんな2人のやりとりにひまりはクスッと笑うと
「それは見たくないなぁ」と少し穏やかになった顔で笑う。
「じゃあ、ちょっと…休ませてもらう…ね。由希、無理しちゃダメだよ。春、由希のことよろしくね」
そう言って立ち上がり、とぼとぼと歩いていくひまりの背中を由希と潑春は心配そうに見ていた。
「じゃあ…由希、ラブシーンを」
「そろそろ本気で怒るぞ」
潑春の戯けた態度に由希は額に青筋を立ててにらみつける。
「由希、こわい」と潑春が両手の平を見せて降参のポーズを取ったのを見て、呆れたようにため息を吐く。
「ひまりを苦しめてるもの…何だろうな」
潑春はもう見えないひまりの背中を見るように、遠くに視線を向けて呟いた。