第5章 それぞれの
紅葉はひまりと手を繋いだまま、由希と潑春から離れるようにその手をひいて前へと歩き出す。
由希を異常に心配しているひまりは振り返って由希を見るが
「ダイジョーブダイジョーブ!ハルはユキの王子サマだからね!」
と紅葉はひまりを和ませるように話しかけていた。
「由希…ツラいなら、俺がお姫様抱っこ…」
「やーめーろー」
真顔でジッと由希を見つめる潑春に、由希は額に青筋を立てて睨み返した。
「普通に歩けるよ。ちょっと怠いくらいだから」
肩にポンと手を置いて歩き出す由希の横に並んで潑春はついて歩く。
「ひまりが、あそこまで焦ってた理由は?」
「わからない、俺の熱が分かった途端凄く動揺し始めて…」
「なんだろ…もしかして……由希ラブ?俺のライバル?」
「…それどういう感情なんだよ…」
ひまりの事が好きだと言っていた潑春のライバル発言に、由希は疑問しか浮かばない。
「…ひまりも由希も、愛してる」
「だから、どういう感情だよ」
「…一夫多妻制…?」
いたって真面目に答える潑春に、呆れた後に笑ってしまう。
「まあ、でも今回のコレは俺が好きとかで動揺したんじゃないよ。さっき思い出したけど、小さい頃に俺が体調崩した時もひまりはかなり取り乱してた」
遠い日の記憶のひまりも、先程と同じように手を震わせながら体調を崩した俺に寄り添っていた。
他の十二支が体調を崩したときには、心配こそするが、あそこまで取り乱す事はない。
何があんなにも彼女を不安にさせているのか…思い当たる節が全くない由希には考えても答えは出なかった。
チラチラと何度も振り返り由希の様子を伺うひまりを見て、潑春は由希が持っていた荷物を奪い取るとそれを肩にかけた。
「まあ、とりあえず。早くいつものアホ姫に戻って貰わなきゃ困るから…。由希は療養に専念」
「ははっ。そうだな。しっかりしなくちゃな、俺」
潑春は優しく微笑むと「由希の成長、ウレサミシイ」と呟く。
その言葉に吹いた由希が「どの立場だよ」と突っ込むと少し悩んで「……パパ?」と真面目に答えるからまた吹き出す。
「ほんと…春は…っ」
ツボに入ったように笑う由希に、潑春も釣られて顔を緩ませていた。