第1章 宴の始まり
「夾くーん!夏休みでだらけまくってるきょーくーん!」
玄関を開けて紫呉が叫ぶと、怠そうに頭を掻きながら夾が階段を降りてくる。
「っるせぇなー。年がら年中夏休みみたいなやつに言われたくな……っっ?!」
紫呉と由希の後ろから「ひ、ひさしぶりー…」と気まずそうに手を振る懐かしい彼女を見て言葉が詰まる。
夾はその瞬間怒りの表情に変わってダンダンと脚に力を込めて近付き紫呉と由希を押し除けてひまりの前に立った。
そして彼女の右肩を乱暴に掴んだ。
ひまりは驚きはしたがそれに抵抗しようとはせず眉尻を下げたまま夾を見つめる。
その行為に由希が夾を静止させようとしたが、紫呉にまぁまぁと止められ不服そうな顔をする。
「ひまり…おっまえっっ!!今まで何処に居やがった!!何も言わねぇで勝手に居なくなりやがって、連絡のひとつも寄越さねぇで!!!こっちがどんだけ…っ」
言い終える前に夾も首の怪我と血の跡に気付き、怒りの熱が冷める。
「っんだよこれ…お前何があった…」
怒っていた顔が一気に心配な表情になり肩を掴んでいた力を緩める。
「あー。えっと…、急に居なくなってほんとごめんね…夾。色々あって…」
「今聞きてーのはそんなんじゃねぇ。その怪我どうしたんだって聞いてんだよ」
眉間に寄せていた皺をさらに濃くして、睨みつけるような視線になる。
その雰囲気に怯むひまりにまたもや助け舟を出したのは紫呉だった。
「はいはーい。心配してたひまりに会えて感情が昂ぶってる夾君落ち着いてー。お家が昨日全焼して住む所が無くなったから、ひまりにこの家で住んでもらって高校も同じ所に通ってもらう話をするから、由希君もとりあえず中に入ってー。」
「「…は??」」
由希と夾の声が揃う。
今のでほぼ簡潔に全部言ったよ紫呉さん。と心の中でひまりはツッコミを入れたが紫呉は2人の反応を気に止めることなく中に入って行った。
その紫呉の背中を見送った後、2人がバッとひまりを振り返って見るがその空気に耐えられないひまりも靴を脱ぎ出す。
「私も…とりあえずお邪魔しまーっす。」
そそくさと入っていくひまりの後ろのあとを怪訝な顔をしてついていった。