第1章 宴の始まり
久々に会ったからか、彼女はえーっとえーっととアタフタと焦っていた。
「由希…久しぶり!!すごく…すっごく背伸びたね!男の子っていいなぁー!」
怒っていたのに。言ってやろうと思っていた言葉はたくさんあったのに、その笑顔を見たら全て何処かへ飛んで行った。
「久しぶり…ひまりは小さいままだね。…元気そうで…無事で良かった…本当に…」
ひまりの身に何かあったのかと思っていたから。
誰に聞いても「知らない」の一点張りで、まさか…もしかしたらって事も、何度も思ったから…本当に良かった。
「いやぁ、それがねー由希君。無事なんだけど…無事じゃなかったと言うかー…ねぇ?」
紫呉が言いにくそうに、困ったようにひまりの方を見ると、あははー…とこちらも困ったように笑っていて
「えーっとー…実はー…昨日家が燃えちゃいましたー!まさかの私の荷物コレしかありませーんっ!!あははーっ………みたいな?」
背負っているスクールバッグを見せながら、極めて明るく言う彼女の言葉の意味が理解出来なかった。
その言動と振る舞いのギャップに情報処理が追いつかない。
「……は?」
ジョークにしてはあまりにも笑えない。
本当にしては、このふざけたテンションはなんだろうか。
やっぱり思考が追いつかなかった。
その時、ひまりの首元にガーゼが貼られているのと同時に制服の襟元の血の跡が目に入り、由希は眉間に皺を寄せる。
「ひまり…これどうしたの?」
首元に指を差す。
火事と言っていたから逃げる時についてしまった傷だろうか…それにしても…首…?制服も汚れていないし他に怪我も無さそうだから別の理由…?
「いや、これは…えーっと…えー…そのー…ねぇ?」
目が泳いでいる。
誤魔化そうとしている。
確実に誤魔化そうとしている。
視線を彼方此方にするひまりを逃すまいと、こちらは視線を絶対に外さなかった。
だが、割って入ってきた紫呉にそれを阻止される。
「まぁまぁ由希君。家で夾君も待ってることだし、こんなとこで立ち話もあれだからとりあえず中に入ろうじゃない」
明らかにひまりを庇っての事だと分かったが、確かにこの炎天下での立ち話はキツイ。
渋々その提案に従う事にした。