第5章 それぞれの
由希と潑春もひまりがいないことを不審に思い周りをキョロキョロと見回していると3人の頭上から探している人物の声が聞こえた。
「トップの座、いただいちゃいまーしたっ」
岩の上で胡座をかいてピースを向け、ゴーグルを外してウィンクしているひまりがそこにいた。
3人は信じられないとでも言うようにポカンとした顔でその様子を見ている。
「ひまりってばね、凄かったんだよー!海の中に消えちゃったと思ったら岩の前にバシャーンって1番に現れたんだよ!」
興奮気味に話す紅葉に、ひまりはエヘヘと照れ臭そうに笑いながら水泳帽を脱ぐと、纏めていた髪を外して頭を左右に振った。
「潜水だけは昔から得意なんだー!スイカ棒タダ食いタダ食いー」
岩の上から海に飛び込んだひまりが、プカプカ浮いている紅葉とハイタッチをすると「春!ゴチになりまーす」と紅葉と共に両手を胸の前に合わせる。
「ひまり…かっこいい…」
ハンデを貰ったとは言え、宣言通り夾に勝ち、更に1位でゴールしたことに潑春が親指を立てて称賛すると、ひまりも親指を立てて「でしょー?」と誇らしげに返した。
そうだった。ひまりは基本運動音痴だが、短距離走や回避能力など…一部分だけ突出している類稀なる運動音痴だった…!!
と、由希と夾が同じ事を考え衝撃を受けている中、ひまりと潑春と紅葉は一度海から上がるためにパラソルの元へ向かって行く。
3人がパラソルの場所へと戻った少し後に由希と夾が戻り、夾は由希に負けた事で明らかに不機嫌そうな顔をしていた。
「濡れてダリィ。先帰って寝る」
そう言って眉を顰めながらひまりに近付くと、手に持っていたパーカーを後ろからひまりに被せた。
驚いて振り返るひまりに「それ着とけ」とぶっきらぼうに言うと背を向けて別荘に帰って行った。
「あ…りがとう」
戸惑いながらもう聞こえないであろうその背中に呟いて、パーカーのジッパーを上にあげる。
紅葉が「スイカ棒買いに行こ!」とひまりの手を取りルンルンとスキップし出したのを見て、ひまりも「タッダスイカ棒!タッダスイカ棒!」という紅葉が即興で作った歌に合わせて手を繋いだままスキップをし始めた。