第5章 それぞれの
「はいはーい!私もエントリーしまーっす!紅葉!スターターお願い!」
まさかのひまりの参戦に横並びになっていた由希と夾は目を見開いて驚いていた。
潑春は変わらず涼しい顔をしていて、スターターを任された紅葉は「まっかせてー!」とこちらも特に気にしていない様子で揺ら揺らと波に揺られながら手を挙げていた。
「ひまり…本気で?」
先ほどの、全く前に進まず水面でもがくだけの泳ぎを見ていただけに由希は不安そうに声を掛けるが
「本気本気!最下位の人はスイカ棒全員分奢りねー!」
などと、条件までつけてきた。
どうやら彼女は本気でこの勝負に勝つつもりのようだった。
「お前泳げねーくせに、ンなこと言っていいのかよ?」
「泳げるってば!夾には負けないもんねー」
「…ひまりはハンデあげる。俺たちより前からスタートしていいよ」
「ハンデやった所で進めねーんだから意味ねぇだろ」
潑春の提案に呆れたように夾が言うが、当のひまりは勝率が上がったとでも言いたげに目をキラキラと輝かせ始めた。
「いいのー?!じゃあ有り難くハンデいっただきまーす」
ひまりはルンルンで前に進み「この辺でいいー?」と聞くと「どーせならゴール直前でもいいけどな」と夾に皮肉を言われその表情をムッとさせた。
「そんなの勝負の意味ないじゃん!夾には絶対勝つから!」
アッカンベーとすると前を向き、勝ってやるオーラをバリバリに出し始める。
全員の準備が整ったことを確認した紅葉が浮き輪で浮かびながら「よーい…」と腕を水平にあげる。
4人に一気に緊張感が増し、チャプンチャプンと波が出す音だけが辺りに響いた。
そして
「スタートー!!!」
紅葉が腕を振り上げると同時に3人が一直線にゴールの岩ん目指し始める。
一方、ハンデをもらったひまりは大きく息を吸い込むと水中の中へと消えていった。
それを見ていた紅葉のいつもの大きな瞳が一瞬鋭くなったが、自ら水の中へと消えていったようにも見えたので一旦様子を見ることにした。
岩に辿り着いた夾がバッと周りを見ると由希が既にゴールしており、そのすぐ後に潑春が岩に辿り着いた。
夾は「クソッ」と海面を叩いて水しぶきを上げた直後にひまりの姿が無いことに気付く。