第4章 蓋
「師匠どこ行ってたんだよ?…なんか、あったか?」
邦光に言伝を聞いてから、師範の身を案じていた夾が不安げに見上げると夾の頭にポンと手を乗せてからローテーブルの前に腰を下ろした。
「お前が気にすることじゃないよ。それより、コレ。3人で食べないかい?」
師範は持っていたビニール袋の中からペーパークラフトでできた箱を取り出し机の上に置くと、その蓋を開ける。
そこには立てて綺麗に並んだたい焼きが3つ入っていた。
「わぁ!鯛焼き!!美味しそう!」
たい焼きに目を輝かせて座ると、夾も私の横に胡座をかいて座る。
夾が師範からたい焼きを受け取ると私に渡してくれた。
手の中にあるそれはまだほんのり温かくてさらに食欲をそそる。
「ありがとう。師範!頂きます!!」
頭からかぶりつくと表面はパリッとしてるのに生地はふわふわで、中の餡子がじわぁっと口の中に甘さを広げていく。
目を閉じてたい焼きの美味しさを堪能していると、師範がクスッと笑い、夾は「お前甘いもん好きだよな。ガリガリの癖に」と揶揄うように声を掛けてきた。
「ガリガリ言うな!そういうときはスタイルが良いって言葉に変換してくださーい」
「チビの癖に図々しいだろ、それ」
呆れたように横目で私を見ると、自分もたい焼きにかぶりついていた。
チビというコンプレックスを何の躊躇もなく私にぶつけやがった。
覚えてろよ、こんの鬼畜猫め。
ジト目で夾の顔を睨むが、私の視線を無視して師範と世間話を始める。
鬼畜猫の後頭部にベーっと舌を出したり、声に出さずにバーカバーカと口パクをしていると、笑いを堪えている師範がこちらをチラチラと見ていた。
そんなことお構いなしに続けていると、夾がクルッと私を見たので視線を自分のたい焼きに向ける。
「おいコラ。分かってんぞひまり」
「なにがー?」
とぼけてたい焼きを食べようとしたが、夾に片手で両頬を挟んで振り向かせられ叶わなかった。
「お前にバカって言われる筋合いはねぇ」
「待って。後頭部に目でもついてるの。カメレオンなの」
その私の言葉に、更に手に力を入れると口がタコのようになる。
「クレープの件無しにすっぞ」
「しゅみまふぇんでした」
夾の脅しに秒で謝ると、私達のやり取りを見ていた師範が「はははっ」と声を出して笑い始めた。