第4章 蓋
「スイカ割りって元々、超絶残酷な儀式が始まりって知ってた?」
師範を待つ間、晩ご飯何食べたい?から何故かスイカ割りやりたいに派生し、前の高校の担任の先生が教えてくれたスイカ割りの由来の話を思い出した私は、夾に豆知識披露会を勝手に始めた。
「残酷な儀式ってどんな?」
頬杖をついてつまらなさそうな顔をしながらも、しっかりと話を発展させてくれる。
「起源は中国らしいんだけど、戦いの前に生きたままの人を砂の中に埋めて、その頭を叩き割るっていうスタンスの儀式が行われてたらしいよ!」
夾は明らかにドン引いた顔をして、片方の下瞼の端をピクピクと痙攣させていた。
「それを見た偉い人が、これグロくね?ヤバくね?代わりにスイカをパッカーンでいいんじゃね?ってなったのが日本でも行われてるスイカ割りの始まりなんだってー!」
「なんで急にチャラいやつ出てきたんだよ」
「いや、現代風にした方が分かりやすいかなって」
「求めてねーよ。ってかその話知っててスイカ割りやりたいっていうお前の情緒が心配」
呆れたように笑うと、拳を作った手の甲で私の頭を小突く。
夾の言葉に「確かに」と言ってゲラゲラ笑うと、夾も「お前ヤベー奴認定な」と笑い出した。
「楽しそうだね。夾、ひまり」
そこに懐かしい声が聞こえて振り向くと、昔と変わらない笑顔の師範がそこに居た。
途端に懐かしさや嬉しさがこみ上げ、私は肺の中を全て新鮮な空気で満たすように大きく息を吸い込んでいた。
「師範…っ!」
立ち上がり師範に近付いて「お、お久し…ぶりです」と緊張で言葉を詰まらせながら頭を下げる。
「久しぶりだね、ひまり。綺麗になってて見違えたよ。色々あって大変だったね…」
ゆっくりと顔をあげると優しい瞳を細めて私を見ていた。
綺麗になってて…と言われ、なんだか恥ずかしくて顔に熱が集まる。
「いえ…師範もお元気そうで何よりです。また…お会いできて嬉しいです」
私が顔をほころばせると、頭をポンポンと撫でてくれる。
この手は魔法の手なんじゃないかと小さい頃は思っていた。
不安を取り除いてくれる優しい手。
本来、お父さんってこういう感じなのかなー。
師範が私の横に並んで立った夾に向けるその目は、血は繋がっていないのに父親そのものだった。