第4章 蓋
藉真は今、目の前に座る人間に抱いている嫌悪感を出さないように平静を装っていた。
「先代の猫憑きを祖父に持たれた貴方だ。ご理解頂けるはず… 猫憑きは幽閉されるが常…。アレは稀にない自由を与えられているがそれも高校卒業すれば終いだ…」
認めたくはないが、その髪質や目元など…よく見ればやはり似ている。
それらが夾と血の繋がった父親であると藉真は再認識させられた。
その父親が、吸っていたタバコを押し付けた灰皿に山のように積まれている吸殻が、彼の堕落した生活感を表しているように見える。
「その後は一生死ぬまで本家の…あの闇深き部屋で生きていかせる。もう外には出さない。貴方の祖父のように結婚も許さない…一生一人で…。藉真殿、その際には協力を…」
何故、私がこの者と同意見で協力までする等と馬鹿げたことを本気で思っているのか…と冷笑が溢れそうになり、藉真は目を閉じて口元を隠すように出されたお茶をすする。
「然りとて少々気の早いお話。卒業まであと1年以上…」
「私は不安なんだ!!もしもアレがこのまま外で生きることを許されたらと考えると不安になる」
藉真の言葉を遮ってガチャッと自身の湯飲みを倒して立ち上がり、大声で喚きだす。
そんな父親の様子にも藉真は眉ひとつ動かすことなく再度お茶をすすっていた。
「アレは…アレは化け物だぞ!!自分の母親を…私の妻を殺したも同然の化け物なんだぞ!!許さない…妻を殺し、私を…どれほど私が辛い目に遭い生きているか。だがアレは贖罪の念すら抱かず…生き…。こんなことが許されるのか!?」
まるで子どものように喚き、独善的な言い分に藉真は腹の底が煮えるのを静かに沈めていた。
そして闇の中でもがき苦しんでいた頃の夾の姿を思い出す。
「全てアレのせいなんだ!アレのせいで全てが壊されたんだ…アレのせいで…なのに…っ」
「似ていらっしゃる」
今度は藉真が彼の言葉を遮る。
あまりにも下らなく、子どもじみた彼の話をこれ以上聞いていても無意味に感じたからだ。
「不安や恐れを抱えきれず、耳を塞ぎ、目を閉じ、他者に委ね、押しつける…。けれどあの子は変わりつつあります。ようやく…絶望から立ち上がり歩み出そうとしている。成長しようと」
父親は藉真の言葉に想定外のことが起こったかのように目を見開いていた。