第4章 蓋
「大丈夫、ありがとう!助かったよ」
軽く腕を上下にさせて、動きにくくないかを確認して夾にお礼を言った。
「あと、師匠に連絡した。明日都合つくみてぇだけどどうする?」
救急箱に消毒液やらを片付けながら私を見る。
「勿論行く!何を差し置いてでもいく!」
「大袈裟だろそれ。じゃあ昼過ぎに出発すんぞ」
フッと笑った後、救急箱の蓋をバタンと閉めて立ち上がろうとする夾に「ちょっと待って」と腕を掴んで止めると、「ん?」とまた胡座をかいて座り直す。
私、まだ昼間のことを謝ってない…。
あのーそのー…モゴモゴと喋っていると夾はキョトンとした顔で私を見ていた。
「なんだよ?」
「今日の…ダブルデート…勝手に帰ってごめん…」
「…あぁ。そのことか。楽羅が勝手に巻き込んだようなもんだし…別にお前に怒ってねーよ」
夾は頭をかきながらそう言うが、やっぱり途中で何も言わずに抜けるのはさすがにー…ねぇ?楽羅にも謝らなきゃだし…。
それでも…と言い返そうとする私の声を夾が遮る。
「あのなぁ。もう怒ってねーって言ってんだからそれでいいだろーが。それにどーせクソ由希が別行動って言い出したんだろ」
「あー…多分…由希、私が映画苦手って…気付いたからだと…思う」
「…?お前、映画無理なのかよ?」
「無理って言うか、暗いのが…ちょっと…。あ!暗所恐怖症とかそんなんじゃないから!」
「だから…お前なぁ…」
夾は大きなため息を吐いて、テーブルを使って頬杖をつく。
あれ?なんか気に触ることでも言っちゃったっけ?
「言えよ…そういうの。わかんねーから」
「そんな言うほどのことでも…ないかなぁって…」
「今回だけのことじゃなくて色々あんだろ、他にも。言わねーで耐えてること」
ドキッとした。
隠している呪いのことが頭によぎったから。
耐えているんじゃない。
私は狡いだけ…。
「ないない!耐えるとか…そんな繊細な人間じゃないよ!何も考えてないだけ。だからそんな気にしな」
「その顔、腹立つからやめろ」
あははーと笑う私に、眉根を寄せて睨みをきかせる夾。
一応…女子に対してその顔腹立つ…は酷くない?
夾はまた机に頬杖をついたまま、再度大きなため息を吐いた。