第4章 蓋
「だぁーかーらっ。腕見せろって」
ぶっきらぼうに言い放つと顎で私の腕を指す。
「あ、は、はぃっ」と夾の勢いに促されて右腕を差し出すと、近くで傷を見た夾が眉根を寄せて目を細めた。
「ひでぇ傷…」
そう言うと夾は救急箱から消毒液と脱脂綿とピンセットを取り出す。
どうやら手当てをしてくれるみたいだ。
さっきの部屋戻れ。は私の顔を見たくないとかじゃなく、傷を見て、手当てするから部屋で待っとけって意味だったんだ。
何とも分かりにくい。
「何で包帯外してたんだよ?」
「お風呂で濡らしちゃって…ついでに消毒しようかなって」
「自分でか?利き腕怪我してんだから出来ねーだろ。言えよ。やってやるから」
言葉は優しいが、あくまでも態度はぶすっとしたままで脱脂綿に消毒液を染み込ませていく。
「滲みると思うけど我慢しろよ」
「ごめん。無理。痛いの無理」
駄々をこねる私の言葉をフルシカト状態で、傷口に脱脂綿をあてていく夾。
こんの鬼畜猫!と心の中で悪態を吐くが、ひんやりとした感覚だけで痛くない。
なんだ案外滲みないじゃ…
「いたいいたい!痛いよ夾!!」
「知ってる」
私の訴えを軽く流して続ける彼を、今度こそ本物の鬼畜猫だと思った。
痛みをなんとか逃したくて机に突っ伏して、左手で握り拳を作り小刻みに机を叩く。
夾は私が痛がっているのを全く気に留める様子もなく、手際よくガーゼをあてて包帯を巻いていく。
痛みのピークが過ぎてから、顔を上げてその手際の良さを感心しながら見ていた。
「夾って…器用だよね」
まるで、はとりがやったみたいに綺麗に巻かれていく包帯。
そういえば、こないだ晩ご飯の準備手伝ってくれた時も私より手際が良かったし…。
「怪我したとき、全部自分でやってたからな。…勝手に身についちまったんだよ」
ばつが悪そうに言う夾。
怪我したときって由希との勝負で負けたときのことだろうな…。
正直、仲の悪さだけでは無い何かが由希と夾にはあると思う。
由希に勝負で勝つことに固執する夾。
何なのかは…私にはわからないけど……。
「ほら、おわり。キツくねぇか?」
違うところに考えを飛ばしていた私を、夾の声が引き戻した。