第4章 蓋
このミニトマトを晩ご飯のサラダに入れよう!と言うひまりの提案で由希はミニトマトを収穫していた。
収穫したミニトマトを入れるザルを取りに一度家まで戻っていったひまりがそろそろ戻ってくる頃だ。
「ナスも…食べ頃かも」
色が濃く、艶のあるナスを見ながら由希が見極めていると走って近付いてくる音に後ろを振り向く。
「おまたせー。ナスも食べれそう?!焼きナスしようよ焼きナス!!」
ザルを抱えて隣にしゃがむひまりに「それいいね」と返すとナスの収穫も始めた。
収穫したミニトマトをザルに入れながらひまりがあっ!と何かを思い出したように声を上げる。
「さっき家に戻ったら電話があって、紅葉だったんだけど。明後日からヒショの旅なのよー!準備しててね!ユキとキョーにも伝えててね!って言って電話切られたんだけど…」
「また急に…なに勝手に決めてるんだ…紅葉は…」
呆れてため息を吐く由希に、でも楽しそうじゃない?と笑顔のひまり。
「ひまりは本当に体調大丈夫?」
「心配かけてごめんね。でも本当に大丈夫!せっかくの夏休みだし楽しもうよっ!避暑の旅ってどこ行くんだろうー」
海?川?どっちもアリだなー!と言いながら収穫したミニトマトをつまみ食いして、また幸せそうに目を閉じる。
「あんまり食べると無くなるよ?はい。没収。ほら、帰ろうひまり」
2つほどひまりがつまみ食いを続けた所で、由希がザルを取り上げる。
ひまりは名残惜しそうにミニトマトを見つめながら歩き出す由希についていった。
少しずつ西に傾いていく日が木々達の影を伸ばしていく。
伸びた影が自分達の影に重なり合うのを見て由希は少し物悲しい気持ちになった。
家に帰ればデートは終わり。
隣で他愛もない話で楽しそうに笑う彼女を独り占めできる時間が終わってしまう。
「ニラはまだ収穫時期じゃないの?」
「ニラは秋頃だね。食べられるのはもう少し先かな」
ニラ料理を考えるひまりの横顔を見ながら
由希は今この瞬間が永遠に続けばいいのに。と叶いもしないその願いを
一人胸の中で願っていた。