第4章 蓋
真上にあった日が傾き始め、刺すような日差しが少し柔らかくなった頃。
たこ焼きを食べ終え一旦帰宅した由希とひまりは、荷物を置いて"秘密基地"へと向かっていた。
風が吹く度にサワサワと葉と葉が擦れ合う音を聞きながら、木が生い茂る道を歩いて行った。
開けた場所に出ると、そこには小さな畑がありニラやミニトマト、ナスが植えられていた。
「ここが…秘密基地…?」
「うん。俺の秘密基地。…想像と違ってガッカリした?」
ポカンとして野菜達を見つめるひまりに由希は不安げに聞く。
「…凄い…凄いよ由希!全部由希1人で育てたの?!」
「え、う、うん。そうだよ」
「凄いよ!本当に!私チューリップですら花咲かせられなかったもん!こんなに立派なの…ほんとに凄いっ」
あまりのひまりの称賛振りに、由希は照れたように微笑んで「ありがとう」と小さく呟いた。
「由希…すごい不器用だったのに…大変だったでしょ?」
畑の前でしゃがんでみずみずしい野菜たちを見ているひまりの横に由希もしゃがんだ。
「うん…たくさん枯らしたし…うまく実が育たなかったり…失敗ばかりだったかな」
「…違うよ。由希」
突然の否定の言葉に由希は、まだ野菜を眺めている彼女の横顔を見る。
「"失敗"じゃないんだよ。成功までのただの道のり。諦めてないなら失敗じゃない。由希はまだ"1度も失敗してない"んだよ」
ニッコリ笑って由希を見るひまりが「凄いね。由希は」と最後に付け足す。
由希は酷く驚いた顔をしていた。
まさかこんなちっぽけなことで、自分という人間を認めて、それを言葉にして伝えてくれるとは思わなかったから。
一方、ひまりはミニトマトを指差して、これ食べていいー?とニコニコとした顔を向けている。
「…うん。食べていいよ」
由希は真っ赤に熟れたミニトマトを1つ摘み取るとひまりに手渡した。
それを頬張ると「あまーい」と幸せそうに手を頬にあてて味わうひまりに目を優しく細めて見つめた。
「ありがとう。…ひまり」
「ん?こっちこそありがとう!もぎたてトマト美味しすぎるーっ」
味の感想に対する「ありがとう」と勘違いしているひまりだったが、由希はそれを指摘することなく微笑みで返した。