第22章 そして私は人類の敵になる
しばらく黙っていた無惨様だったけど、思い立ったように爪を引き抜くと冷めた目でとつとつと話し始めた。
「鬼狩りどもはみな、私に憎悪の目を向ける。やれ仇討ちだ復讐だと、飽き飽きだ。……ようやくわかった。お前は、知り合いを誰も殺されていなかったから、私を愛せたのだな」
「違います、それは……!」
「何も違わない。だったら今からお前の親兄弟、友人、同僚、皆殺しにしてやろう。それでもまだ愛せるというなら、お前を信じてやる」
「う、うぅ…………」
無惨様の目は、本気だった。冗談などではなく、彼なら本当にやりかねない。
……そうなった時、私は、彼のことをどう思うんだろう。愛せなく、なってしまうのだろうか。
どうなの、どうなんだ、私の答えは。こんなものだったのか? 私の愛は。
「ふん、やはり口先だけだ。愛などこの世にありはしない」
「…………」
口先、だけだったのかな。私は、彼を愛しているつもりになっていたのかな。
……ううん。違う。本当は全部わかっていたはずだ。無惨様の味方をするということは、人として生きる道を捨てるということ。彼を愛するということは、人類の敵になる覚悟をするということなんだって――
人の血を飲んで生きている時点で、無惨様が人を食べるのを許容していた時点で、私はもう人間に牙を剥いていたんだ。
「……いい、ですよ」
私は、声を絞り出した。震えながら……でも、はっきりと自分の意思を伝えていく。
「いいです、誰を殺してくれても。それでも私は、変わらず貴方の傍にいます」
「あり得ん。そんなわけがないだろう」
「これから貴方と永遠を生きる私には、人間なんて皆、取るに足らない……ほんの一瞬すれ違っただけの存在です。だから、どうぞ無惨様のお好きなように」
跪き、地面に額を着ける。彼に対する敬意と慕情を、精一杯込めて。