第23章 そうだ、温泉に行こう
「食事なしでいいなら、結構空いてますねぇ。こことか、どうです? 一緒に入れる露天風呂ありますよ!」
「確かに、人間の食事は不要だな。宿はどこでも良い。お前が決めろ」
「はぁーい!」
ウキウキしながら、予約ボタンを押す。昼間は外に出られないので、明日の夜にチェックインすることに決めた。
「無惨様~、明日の夜出掛けますね。この部屋の写真見て下さい! 夜景とってもキレイじゃないですか?」
「……ああ」
「もー、そっけないですねぇ~! 部屋のお風呂だけじゃなくて、館内には大浴場とかジャグジーもあって――」
「ああもう五月蝿い。全て明日になればわかることだ」
「うぅ……それはそうですけどー!」
……私は、浮かれていた。本当に、浮かれていた。あれだけ気を付けていたのに、無惨様が優しいからまた勘違いしてしまっていたんだ。
だけど、そのことを私が知るのは、もう少し後のことになる。私はもう少しだけ、甘い夢を見ることを赦されていたようだ。
「無惨さまー」
「何だ」
ぺったりと腕にくっついてみても、払いのけられたりしない。嬉しくなった私は、二の腕に頬を擦り寄せて甘えてみる。
「えへへー。好きですよぉ?」
「知っている。だから何だ」
「言ってみただけですよ。つい、言いたくなるじゃないですか?」
「……心の声と全く同じことをわざわざ口にするなといつも言っているのだが」
「ふふ……ごめんなさい!」
この時の私がもう少しだけ敏感ならば、無惨様が複雑な表情をしていることに気付けただろう。
なのに、なのに私は本当に自分のことばかりで。早く明日が来ないかなと、そればかりを考えているのだった。
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